2015年7月4日土曜日

きみはいい子


きみはいい子
20115/日本 上映時間121分
監督:呉美保
脚本:高田亮
製作:星野秀樹
音楽:田中拓人
撮影:月永雄太
編集:木村悦子
原作:中脇初枝

キャスト:高良健吾
尾野真千子
池脇千鶴 他

90点





"他者と関わることの限界と可能性"




テアトル新宿にて鑑賞。
上映終了後、涙が落ち着いたのを待って劇場を出ると、階段に展示されていたスチール写真でまた涙がこみ上げてきて、新ピカのトイレに駆け込むというこの有様。

人の人生に関わる難しさを感じながら、どうにもならないことを目の前にして、それでも抱きしめられたり、肩を叩かれたり、背中を撫でられたりすると、少しでも痛みが分かち合える気がする。

とても優しい映画でした。
とてもいい映画でした。







虐待、学級崩壊、ネグレクト。
これらの社会問題を群像劇として描いていながら、そこから浮かび上がるものはとても普遍的な、人と人とが関わることの難しさ。

新米教師である高良健吾は、教師として立場からその難しさに直面します。
ネグレクトを受けている生徒がいたとしても、”教育”として生徒との関わり方には限界がある。それを突きつけられる、目の前で閉まる扉と、中から漏れてくる怒鳴り声。

母親である尾野真千子は、自分の虐待経験が原因で娘とどう接すればいいのか分からずに、どうしても手をあげてしまう。

人の人生に関わることの困難さと限界を感じつつ、でもその中で、言葉と理屈を超えて、背中をさすってもらったり、頭を撫でられたり、抱きしめてもらったりすることで、そういったしがらみを越えて、痛みを分かち合えたりする瞬間もあるのだと今作は伝えます。

高良健吾演じる新米教師は、クラスの生徒達にある宿題を出します。
それは、家族の誰かに抱きしめられること。
次の日にその結果を聞いて回る場面。
間違いなく実際に演者の子達に”宿題”をやってきてもらったのでしょう。
話を聞かれた生徒達の顔はみな恥ずかしそう。素の表情が見えるドキュメンタリックなシーン。

このシーンに思うのは、抱きしめられた生徒達はみな恥ずかしそうにしているけども、抱きしめた家族の誰かは間違いなく、逆に子供達から何かを与えられたんじゃないかということ。

人と人が関わりを持つということは、他者の人生に関わるということ。
確かにそれはすごく恐ろしいことでもあるし、難しい。
コミュニケーションが取れたところで、互いの感情や痛みは完全には分かり合えない。
でも実は、単純な触れ合いが、その壁を越えられる手段なのかもしれない。

圧倒的に優しくて正しいこのメッセージに涙。






ラストの街に桜が舞う演出。
それまで別々の場所にいた者達が、桜を通して同じ場所にいるんだと知り、皆それぞれに痛みを抱えているんだと分かる瞬間。
この大団円さと、突然の超現実加減はすごく大林宣彦的なテイストを感じました。
見えるものだけにこの桜は見えているという点もポイント。

チープさが目立つだとか、作品のトーンが突然変わって違和感があるとの声もありますが、それは演出の意図として間違いなく狙ってのことだと思います。


劇中では回収されてないエピソードもあります。いじめを受けていて不登校になってしまった子はこの作品内では救われません。
しかし、全てを解決しないことで、描かれているテーマとの適切な距離感を感じてすごく好感が持てました。
ラストに至ってある人物に映画の流れとしてとらせるべきあるアクションを”起こさない”ことにもそれは表れていると思います。

ラスト、高良健吾が扉の前に立つシーンで映画は終わります。
それは、教育の限界に直面した彼が、その壁を超え、人と覚悟を持って関わり合おうと覚悟を決めた場面だと、私は受け取りました。

それぞれの物語は、覚悟を決めたこれから続くのです。






役者の演技も申し分なし。
『そこのみにて光り輝く』ではあんな関係だった池脇千鶴と高橋和也が夫婦役だったことに心底ほっとさせられました。

余談ですが、『そこのみにて光り輝く』からのバトンを受けて、山下敦弘監督が故佐藤泰志さんの原作小説『オーバー・フェンス』を撮ります。
函館三部作として、『海炭市叙景』は熊切和嘉監督が、『そこのみにて光り輝く』は呉美保監督が、そして最終章『オーバー・フェンス』を山下敦弘監督が。
撮影監督は近藤龍人。
そして皆それぞれ大阪芸大の先輩と同期の関係。

うんうん、日本映画の未来は明るいと感じます。



<あらすじ>
「そこのみにて光輝く」でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞した呉美保監督が、2013年本屋大賞で第4位にも選ばれた中脇初枝の同名短編小説集を映画化。5つの短編から成る原作から、「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」という3編を1本の映画にした。真面目だがクラスの問題に正面から向き合えない新米教師や、幼い頃に受けた暴力がトラウマになり、自分の子どもを傷つけてしまう母親など、子どもたちやそれに関わる大人たちが抱える現代社会の問題を通して、人が人を愛することの大切さを描き出す。出演は高良健吾、尾野真千子のほか、「そこのみにて光輝く」に続いての呉監督作となる池脇千鶴、高橋和也ら。
映画.comより






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