『Bridge of spies』
2015/米 上映時間142分
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:マット・シャルマン
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
製作:スティーブン・スピルバーグ
マーク・プラット 他
製作総指揮:アダム・ソムナー 他
撮影:ヤヌス・カミンスキー
音楽:トーマス・ニューマン
キャスト:トム・ハンクス
マーク・ライランス
スコット・シェパード 他
90点
"武器としての言葉"
最寄りのTOHOシネマズにて鑑賞。
観賞後、余韻にひたりながら駅のホームで携帯を開くと、SMAPがテレビで謝罪をしていたらしい。その話題でもちきり。
どうでもいい、訳ではないけど、個人的にはそんな大ニュースが頭に入ってこないくらいに素晴らしい作品でした。
世界的にきな臭い出来事が増えて今、前作『リンカーン』とセットで語りたいです。
人間には、コミュニケーションという素晴らしい”武器”があるじゃないか。
前作『リンカーン』と今作『ブリッジ・オブ・スパイ』に込めたスピルバーグのメッセージを、個人的に解釈するならばこれです。
両作に共通していることは、主人公が言葉とそれを使ったコミュニケーションを使って状況を打破するお話だということ。そして、そのコミュニケーションが歴史を変える”言葉”だったということ。
リンカーンは、議会での多数評を得るために、時にずる賢い手を使って反対派の人物を懐柔していきます。
今作でのトム・ハンクス演じるドノバンもそう。保険の分野で得たテクニックを用いて弁護士としての口八丁で状況を転がしていきます。
この共通するずる賢さも魅力の一つ。
彼等の行動の根っこの動機は正義感かもしれないけれども、少なくとも劇中ではそれが大仰に描かれていない。どちらかというとユーモアたっぷりに彼等のずる賢さが強調して描かれている。
ここをもって言葉は文字通り”武器”であると強く感じました。
『リンカーン』クライマックスにて、声を荒げて熱弁を振るうリンカーン。
振り返ってみれば、あれも彼にとっての言葉を武器にしたパフォーマンスとも取れる。
今作で言うと、会話を拒否されたことを逆手に取っての”又聞き”の技。
これが巧い。
そして、このコミュニケーションこそが、全体主義と無意識が生む同調圧力を退ける力になるのでしょう。
相手を知ること。そのためには言葉を使い、コミュニケーションを取り、お互いを知る。
今作の主人公ドノバンを突き動かしていた動機はもはや正義感ですらないのだと思います。劇中の「相手に好感を持っている」という台詞にもある通り、ただ単純に親しくなった者に対する”心配の気持ち”なんだと思います。それを正義感と言ってもいいかもしれない。でも、その中心にあるものは、他者に対するほんの少しの気遣い。
言葉を使い、コミュニケーションを取り、相手を知り、親しくなり、友となる。
その友のために、言葉を使い、コミュニケーションを取り、相手をやり込め、友を救出する。
今作、そして前作『リンカーン』は紛れも無く言葉とコミュニケーションの映画です。
スピルバーグ的なモチーフがたっぷりな今作。
個人的なハイライトは中盤でのベルリンの光景。
建設中のベルリンの壁を縦の移動ショットで見せるシーンの見事さは筆舌に尽くし難いです。
この為だけに今作を観る価値はあると言っても過言ではない。
その他窓から隙間からもれる光などなど、スピルバーグがいっぱい。
そして今作はコーエン兄弟脚本でもある。
個人的に、何かを一枚挟んだところでの会話シーンにコーエン兄弟を感じました。
そしてこれがまた良い。
例えば東ベルリンの交渉人と車に同乗し、スピード違反で取り調べを受ける場面。
車に一人残されたトム・ハンクスと、窓を一枚挟んだところでの東ベルリン側の者達の会話、をそれを車側からの主観ショットで見せるシーン。
この心もとなさ、凄くコーエン兄弟感が溢れていて凄く良い。
歴史の裏で(特に東西冷戦下)、人知れず暗躍していた者の話が個人的に大好物なことは差し引いても、大変素晴らしい作品であることは間違いないです。
文句なしです。
<あらすじ>
保険の分野で着実にキャリアを積み重ねてきた弁護士ジェームズ・ドノバンは、ソ連のスパイとしてFBIに逮捕されたルドルフ・アベルの弁護を依頼される。敵国の人間を弁護することに周囲から非難を浴びせられても、弁護士としての職務を果たそうとするドノバンと、祖国への忠義を貫くアベル。2人の間には、次第に互いに対する理解や尊敬の念が芽生えていく。死刑が確実と思われたアベルは、ドノバンの弁護で懲役30年となり、裁判は終わるが、それから5年後、ソ連を偵察飛行中だったアメリカ人パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズが、ソ連に捕らえられる事態が発生。両国はアベルとパワーズの交換を画策し、ドノバンはその交渉役という大役を任じられる。
映画.comより
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