『お盆の弟』
2015/日本 上映時間107分
監督:大崎章
脚本:足立紳
エグゼプティブプロデューサー:狩野善則
八木原末吉 他
プロデューサー:金森保
撮影監督:猪本雅三
編集:村石誠
キャスト:渋川清彦
光石研
岡田浩輝
河井青葉 他
80点
”「かっこ悪い」という最後通告”
K's cinemaにて鑑賞。
インディ製作でも、こういった良質な日本映画が観られると嬉しくなる!!
今作の監督、大崎章さん。
長年助監督や監督補を務め、2006年『キャッチボール屋』で商業監督デビュー。
あの『リンダリンダリンダ』でも監督補をしていた方。
渋川清彦さん演じる今作の主人公、タカシ。
彼は売れない映画監督。兄の看病を目的に実家に帰り、地元の映画仲間と通るか知れない次の企画の準備中。
苦労人大崎監督が、自身の体験を元に、ほぼ自伝的な作品と撮る。
しかも脚本は、負け犬の意地の物語を熱く描いた傑作『百円の恋』の足立紳さん。
これは胸を打たない訳がない。
仕事が無いなりに家事はしっかりこなそうとするも、妻からは別居を切り出される。
次の企画が通りさえすれば家族の離れた気持ちは帰ってくるはず。
映画が撮れれば、映画が撮れれば…。
そんな上手いこと行く訳はなく、実際に大崎監督も前作から10年のスパンを空けての新作。
それまでの鬱憤を晴らすように、自分にしか語れない物語で勝負。
その意味で間違いなく唯一無二の映画。
物凄く個人的な物語が、ある普遍さを帯びて迫ってくる。
妻から三行半を突きつけられ、なんとかいい姿を見せようとするも大失敗。
世話を任された娘に大怪我をさせてしまい、抱きかかえて病院を探すタカシ。情けないのは様子を見ながら昼間から缶ビールを煽っていたこと。それが妻にバレて、ついに愛想尽かされるも、抱きかかえて必死になって病院を探している時、自分にはもうこれしかいらないと思ったと食い下がるタカシ。
これに対する言葉が痛い。映画の主人公にでもなった気分だった?そんな自分に酔ってた?
そして最後通告。だってあんた、かっこ悪いんだもん。
あいたたた。
何も言い返せないタカシ。
でも、突き放すことって大事。
『もらとりあむタマ子』で善次がタマ子を突き放したように。
そして、『百円の恋』で勝負に敗れた悔しさを知って涙した一子のように。
全てを失ってからじゃないと始まらない物語はある!!
ちなみに、大崎監督は奥さんとは大丈夫らしいです。
モノクロで撮られている今作。
その景色の切り取り方が本当に美しい。
群馬の田園風景がこんなにかっこ良く映えるとは。
アレクサンダー・ペイン『ネブラスカ』と肩を並べると言っても過言ではありません。
ラストのお墓からの遠景のショットは、恐らく意識しているんだと思いますが、『東京物語』冒頭のショットを思わせる本当に美しい構図。
予算はなくても、役者の確かな演技と、正攻法の取り方で傑作は間違いなく生まれる。
こういった日本映画の元気さに触れるたび、進行形で新作を追いかけるのも悪くないと思わされます。
間違いなく日本映画は元気。
<あらすじ>
不惑を目前に妻子と別居中で、兄マサルの暮らす実家に戻ってシナリオ作りに励む売れない映画監督のタカシ。悪友の藤村を通して知り合った女性・涼子を気に入ったタカシは、涼子のような女性が兄と付き合ってくれれば安心だと考え、頻繁に会う機会を作っていたが、涼子はタカシに対して本気になってしまう。一方、妻からはついに離婚を切り出され、なんとか妻の気持ちをつなぎとめようと躍起になるタカシだったが、映画の企画はうまくいかず……。
映画.comより
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