2013/日本 128分 R15+
監督:白石和彌
脚本:高橋泉
白石和彌
製作:鳥羽乾二郎
十二村幹男 他
製作総指揮:由里敬三
藤岡修
原作:新潮社45編集部『凶悪-ある死刑囚の告発』
キャスト:山田孝之 (藤井修一)
ピエール瀧 (須藤純次)
リリー・フランキー (木村孝雄)
池脇千鶴 (藤井洋子) 他
95点
”Oh 強烈!!”
新宿ピカデリーにて観てきました。
ライトな層が観るような映画では無いのに、公開館数が少ないからなのか、場内ほぼ満員でしたね。
しかも若い女性が多かったです。一人で観ていた方も結構多かったですね。
その内の数名は、映画の強烈さに途中退席をされてました。
うーん、ムリは無い。
結論から先に申しますと、この映画大変面白かったです。
観終わって劇場から出る時、何か強烈なものを観てしまった興奮と、劇場内のどんより重い雰囲気に、深く深呼吸をして気を落ち着かせました。
それもこれも、リリー・フランキーとピエール瀧のせいです。
あんたら怖過ぎるよ。もうテレビで面白いことしてても笑えないよ。
素晴らしい。
ジャーナリズム魂
この映画、実際に起きた事件が元になっている実録物です。
獄中の死刑囚がある余罪を3つ告発するんですけど、その事件の裏には全て”先生”と呼ばれた人物が関与していると。そして、その真相を新潮社の記者が暴き、首謀者逮捕に至った、と言う実際に起こった事件。
この実録物で記憶に新しく、また誰もが想像するであろうものが、2010年公開の園子温監督『冷たい熱帯魚』ですよ。
こっちは1995年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件を元にしたものです。
(因に園監督の『恋の罪』は、東電OL殺人事件を元に作られていて、フィクション度は高いですが一応実録犯罪物です)
この『冷たい熱帯魚』が傑作と呼ばれている理由は2つあると自分は考えているんですけど、一つは作品自体の完成度の高さ。そしてもう一つは、この映画がヒットしたと言うことです。
実録犯罪物なんて、世間一般の売れ線と呼ばれる物からは程遠いものに思えます。
でも、ふたを開けると大ヒット。
確実に需要はあったんです。
今回の『凶悪』も監督のインタビューを読んでみると、『冷たい熱帯魚』の存在は意識していたと明言されています。
恐らくは、『冷たい熱帯魚』がヒットしたことを勝機と読んだのではないでしょか。
怖すぎて笑えるシーン
『冷たい熱帯魚』を観た誰もが言う事。それは、「でんでんが恐ろしい」
あまちゃんでは気の良い漁協のおじさんなのに、同じ人とは思えない、って。
『凶悪』のそれがリリー・フランキーとピエール瀧ですよ。
まったく、あんたら怖過ぎるよ。
予告でも使われている台詞
「とにかく、お酒飲まして、殺しちゃうけど。
それはほら、そちらが頼み込んできた訳だから」
これ本当にお酒で人殺しますから。
その描写も、これでもかと残忍に、凄惨に見せています。
とある生活に困っている2世帯の家族が、保険金目当てで父を、”先生”であるリリー・フランキー演じる木村を働き口と騙して預けるんです。
そして夜、最初は楽しく飲んでたんですけど、段々と空気が変わって、もっと飲めと脅迫に変わり、次第に書くのもはばかられるようなことが起こります。
それを喜々として行うんですよ、リリー・フランキーが!!
もうリリーさんが楽しそうなんだわ。
このシーンでぞろぞろ途中退席がいらっしゃいました。
楽しそうと言えば、死体を焼却炉で処理するシーンがあるんですけど、ピエール瀧が薪をくべるように切断した肉を焼却炉の中に入れていると、リリーさんが「僕にもやらせてよ」と嬉しそうな顔で言うんです。そして、全てを処理し終えてポツリと、「肉の焼ける、いいに匂いがするね」とリリーさんが。「なんか、肉食いたくなりますね」とピエール瀧が。
その直ぐ次のカットでフライドチキン、どーん!!クリスマスパーティーのシーン。
悪趣味極まりない!!
さすがに場内で笑いが漏れてましたね。うん、笑った。
しかもこの2人、『そして父になる』に出てるんですよ。
リリーさんなんかめちゃくちゃいいパパなんですよ。
どっちが本当なのさ?
「90℃の酒あったぁ」と嬉しそうなリリーさん
この、どっちが本当なの?と言う問い。
その答えは、どっちも本当と言うことですよ。
そのことを体現しているキャラが、山田孝之さん演じる事件の真相を追う記者藤井。
そして、観ている観客である我々なんです。
藤井は最初、死んで行った者達が報われると言う”正義”の下に動きます。
でも、事件の核心に触れるに従って、段々と目的が曖昧になってくるんです。
この辺り『ゼロ・ダークサーティ』を連想しましたね。
そしてラスト、面会室にて対面した木村に指を指されてこう言われます。
「俺を一番死刑にしたいと思っている奴は、被害者でも、恐らく須藤でもない」
その指は藤井と、観ている観客にも向けられているのでしょう。
俺の死を望んでいる時点で、お前等俺と変わらんぞ、と。
藤井の家には、認知症の母と、その介護に疲れ果てている妻がいるんです。
彼が帰宅する度に、妻は言います。「今のままだとおかしくなりそう」
それは冒頭で、保険金目当てで父を木村に預けた家族と何も変わらない家族の姿です。
つまりこう言うことです。
この世の中で、この映画で起こったような、又ニュースで報道されるような凄惨な事件は、全く他人事ではなくて、誰だって人を殺す、殺される、共犯者になる可能性があるってことです。
いつ、誰が、そうなるのか、分からないのです。
そのことを、ラストにリリーさんに向けられた指でハッと気が付くのです。
恐ろしいけどそう言うことです。
「お前だって俺と変わんないよ」
『そして父になる』を観たのなら、『凶悪』も観ましょう!!
『凶悪』を観たのなら、『そして父になる』も観ましょう!!
公開時期を逃したって人は、DVDで両方借りて、2本立てで観ましょう!!
とにかく両方観ましょう!!
個人的に、今年の助演男優賞はリリー・フランキーに決定ですね。
どちらも素晴らしい。
リリーさんとピエール瀧さんの件が素晴らしかっただけに、編集者でのシーンがちょっと雑に感じられなくも無かった。
が、全く気にならない。言われて、それもそうかもなと感じるぐらい。
とにかくリリー・フランキーの極悪堂ぶりだけでも一見の価値は間違い無しです!!
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