2014年11月13日木曜日

誰よりも狙われた男


The Most Wanted Man
2013/米・英・独 上映時間122分
監督:アントン・コービン
脚本:アンドリュー・ボーヴェル
製作:スティーブン・コーンウェル
ゲイル・イーガン 他
製作総指揮:ジョン・ル・カレ
テッサ・ロス
音楽:ヘルバート・グリューネマイヤー
原作:ジョン・ル・カレ「誰よりも狙われた男」

キャスト:フィリップ・シーモア・ホフマン
レイチェル・マクアダムス
ウィレム・デフォー
ロビン・ライト 他

88点





”かすめ取られた正義”





シャンテだと14日に公開終了すると聞き慌てて駆け込み鑑賞。

お話は直線的で分かりやすい。
ショットの緩急も鮮やかでツボを付いてくる。
万人におすすめ出来るスパイ映画。

そしてフィリップ・シーモア・ホフマン、なんでもういないんだよ…。


ネタバレ注意です。











まず何よりお話自体は至ってシンプルでストレートに楽しめる作り。
同じジョン・ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』とはまた違った魅力の作品に。

要約するならば、”獲物を泳がせておいて、より巨大な獲物を得る”で、この我慢と、罠の設置が全体を貫くお話の骨格部分。

そしてもう一つの要素としては、レイチェル・マクアダムス演じる人権派の弁護士の存在。
彼女が一貫して自分の信念の元に行動をしているから、その他スパイ達の行動がスパイ故に怪しくても、彼女だけは劇中唯一信用出来る人物。ターゲットのイッサもだから信用する。
とりあえず彼女に感情移入していれば間違いなく物語りに置いて行かれることは無いです。
皆が難しい顔をしている中、若い彼女の存在で風通しの良い作品にもなっています。
フレッシュ。

話が進むに連れて明らかになるのは、チームのリーダーであるフィリップ・シーモア・ホフマン演じるバッハマンの、ある過去の任務の失敗と、そこから彼なりの正義の元に行動をしていること。

レイチェルマク・アダムスとフォリップ・シーモア・ホフマンが次第に同じ方向を向きだすのです。

そこから映画も加速。
純スパイ映画的に、罠を張り相手を仕留める読みと駆け引きがスリリングに楽しい後半。
その様子を固唾を飲んで見守り、任務成功。

そして突然訪れる、スパイ映画的裏切り。
バッハマンの正義が、巨大な”正義”に目の前で飲み込まれ、奪い取られて行く様はもう呆然とするしか無いです。

そこで繰り出されるフィリップ・シーモア・ホフマン渾身の「Fuuuuuuuck!!!!!!!!!!」

今まで話が真っ直ぐだった分、これが強烈なパンチになってズシンと腹に来る。

バッハマンは茫然自失で車に乗り込み、当ても無く走らせ、何処かへ消えて行き、映画はそこで終わります。






随所に挟み込まれるショットの緩急も見事。
ルクセンブルクの曇り空、薄暗い屋内の灰っぽいトーンの画面が続いてると思ったら、カット変わって鮮やかな紅葉の並木道の真ん中に煙草を吸いながら佇むバッハマンのシンメトリーのショット。
そこでうっとりしているとシーン変わって、一瞬の拉致の現場を見せる。

この緩急が凄く気持ちいい。

元々カメラマン出身の監督アントン・コービン。
このセンスはそこから来てるのか。

全体に美しいんですけど、気取りすぎていないのも凄く良くて、とにかくバランスが良い。

尋問のシーン。
カメラを直ぐ手前に固定して、その目の前にこっちを向いて寝そべったレイチャル・マクアダムス。その奥にこっちを向いたフィリップ・シーモア・ホフマンの構図。

お互いの顔は見えてないんですけど、カメラの側からは二人の顔がしっかり写っている。
顔で駆け引きを堪能出来る、ショットにしっかり語らせる素晴らしいショット。

センスだけじゃない手堅く良い仕事。






今作が遺作となったフィリップ・シーモア・ホフマン。
熱血漢でもダメ、闇を抱えすぎていてもダメ。
適度に役人的で、適度に人間味がある、少しの正義感もチラッと感じさせつつ、気の弱い一面もある。

フィリップ・シーモア・ホフマン以外に考えられません。
完璧です。

原作者のジョン・ル・カレは、『裏切りのサーカス』のスマイリー役も彼をイメージしていたとか。
舞台が英国MI6ということで、英国人のゲイリー・オールドマンがキャスティングされたとのこと。

ジョン・ル・カレは言います。
”私たちはもう一人のフィリップを長い間待つこととなるだろう。”

本当に勿体ない人を亡くした。



<あらすじ>
ドイツ、ハンブルクの諜報機関でテロ対策チームを率いるバッハマンは、密入国した青年イッサに目をつける。イスラム過激派として国際指名手配されているイッサは、人権団体の女性弁護士アナベルを仲介してイギリス人銀行家ブルーと接触。ブルーが経営する銀行に、とある秘密口座が存在しているという。ドイツ諜報界やCIAがイッサ逮捕に向けて動きだすなか、バッハマンはイッサをわざと泳がせることで、テロへの資金援助に関わる大物を狙うが……。
映画.comより





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