2014年11月29日土曜日

6才のボクが、大人になるまで。


Boyhood
2014/米 上映時間166分
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
製作:リチャード・リンクレイター
キャサリン・サザーランド 他
撮影:リー・ダニエルズ
シェーン・ケリー
編集:サンドラ・アダイア

キャスト:イーサン・ホーク
アトリシア・アークエット
エラー・コルトレーン
ローレライ・リンクレイター


100点





”一瞬が私達を離さない”





TOHOシネマズシャンテにて初日に鑑賞。
場内大入りの満席。

都内3館のみの寂しい公開規模ですが、それぞれ入りは上々の様で嬉しい限り。

間違いなく一生に一度だけの体験が出来た嬉しさと、その感動が個人的な体験に結びついてしまう嬉しさ。
この作品に関わった全てのキャスト、スタッフ、製作の方々に最大級の賛辞を!






同じキャスト同じスタッフで、継ぎ目の無い12年間を描く映画を撮る。
まずこのアイデアと、それを実現させた諸々の環境、志が素晴らしい。

モチベーションの低下、不慮の事故、資金が底をつく等々、撮影困難な状況になる要素はいくらでもあったはずなのに、それを微塵も感じさせない、本当にリラックスした、力の抜けた作品になっているのが凄い。

現場の雰囲気の良さ、キャスト含めたクルーの信頼関係が見て取れてそこだけで親指ぐっ。

そして何より、この時間を掛けた撮影が作品に起こしたマジックの数々。
これがとにかく素晴らしい。

とは言っても、劇中において映画的な過度な盛り上がりは排してあって、あくまで主人公メイソンの視点に寄り添った作りになっているのでその部分で少し物語が淡白だと感じる方もいるかもしれないです。
が、そのバランス感覚こそリチャード・リンクレイターのセンスの良さが光るところ。

メイソンの日常を丹念に積み重ねるだけでドラマは生まれる。
例えば、彼の身体的変化を見てるだけで物語が前に進む。
身体の変化がそのまま話の推進力になっている不思議。

メイソンだけじゃなくて、父親を演じるイーサン・ホークの髪に白髪が増え始めただとか(この部分でかなり涙腺を刺激されました)、母親を演じたアトリシア・アークエットの身体がみるみるふくよかになっているだとか、メイクやCGでは絶対に表現不可能な圧倒的な時間の変化が見て取れて、そこここにマジックが宿ってるんです。

12年分の時間がにじみ出るキャスト同士の関係もそう。
メイソンの高校の卒業パーティーでの、妹サマンサのスピーチ。
照れとドライさを含みながら、はにかんだ笑みで一言「頑張って」と親指を立てる彼女。
何にも良い事なんか言っていないのに、それまでの彼女達の関係を思うとどうにも涙。






身体も変化すれば心も変化するもの。

過度な盛り上がりは排されていながらも、その分描写は丁寧に。
製作の段階で12年分の脚本は存在せず、大まかな計画書だけがあって、一年毎にキャストとスタッフで相談をして脚本を繋いでいったそうです。

なので、パンフレットで是枝監督が指摘しているように、実際の演者の変化をお話に反映させたのでしょう。
その結果、前述の通り全く作品がお話に縛られた窮屈なものになっていない。
12年間撮影出来たことと同じように、この作品自体のリラックス加減、力の抜け方は本当に奇跡だと思います。


リンクレイター監督、随所に演出も巧いです。
特にラスト手前、メイソンが家を出る荷造りをしているシーン。
メイソンが初めて撮った写真を大学の寮に持って行くかどうかの会話で、一瞬話が途切れ、母が泣き出すのです。
その泣き出す手前の一瞬に、母だけを画面の左端に置いて、余白を作るショットを挟む。
その一瞬で、メイソンがいなくなった後の光景が我々にもグっと迫って来て、思わずホロり。

でも、子供を送り出したら残ってるのは葬式だけだと泣く母を心配しつつ、「まだまだ生きるでしょ、気が早いよ」と笑ってみせるメイソン。
このバランス感覚、本当に良い。






人が育っていく上で、人間関係と同じように、その時代の空気やポップカルチャーからも無意識に影響を受けるもの。
今作だと00年代以降の政治、ポップカルチャーも切り取られていて、それが時代を表す記号としてだけではなく、しっかりメイソンが生きる時代の空気になっているのが良くて。
ベースの部分がしっかりしているから、その上にある生活がより説得力を増して描かれてる。

ドラゴンボールを見て、X-BOXで遊んで、YouTubeで動画を見る。
これらの細かいディテールがしっかりしてるから作品により広がりが出てキャラクターがのびのびとしてるように感じます。


ポップカルチャーと言えば音楽。
劇中で流れる曲達も素晴らしいです。

予告でもメインで使われているFamily of the yearの「Hero」はもちろん(これが独り立ちの歌なのです)、Wilcoの「Hate It Here」も素晴らしい。映画の幕開けのColdplay「Yellow」は言わずもがな。

キャンプで話題に出してたスター・ウォーズの新作についての話。
数年経って、高校三年生の時に父が嬉しそうにふってくるスター・ウォーズの話題。
子供が小さかった頃に好きなものはいつまでも変わらず好きなんだと思っているその父のテンションがまた良くて。



こう見ると本当の家族のよう



ラストの台詞。
そして終わり方も素晴らしい。

メイソンのこれまでの人生を私達は知っている。
でも、これからの人生のことは分からない。
メイソンにも私達にも。
これは正に私達の人生そのもので、過去の思い出だけが記憶にあって、その先の何かの予感だけがそこにある。
一瞬は私達を離さず、継ぎ目の無い時間はただ前に進んでいるのです。
それを感じさせる、会話の間で終わるラスト。
完璧です。


個人的な感情と結びついてることを抜きにしても、こんな作品には恐らく二度とお目にかかれないのでは。
見逃さない手は無いです。



Did you see how people always says "seize the moment"?
I tend to think that is backwards.
The moment captures us.
Yes.
Yes, of course, is ... is constant.
The time is ...
It's like always
out now, you know?
Yes.



<あらすじ>
「ビフォア・ミッドナイト」のリチャード・リンクレイター監督が、ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、12年かけて撮影したドラマ。主人公の少年メイソンを演じるエラー・コルトレーンを筆頭に、母親役のパトリシア・アークエット、父親役のイーサン・ホーク、姉役のローレライ・リンクレーターの4人の俳優が、12年間同じ役を演じ続けて完成された。米テキサス州に住む6歳の少年メイソンは、キャリアアップのために大学に入学した母に伴われてヒューストンに転居し、その地で多感な思春期を過ごす。アラスカから戻って来た父との再会や母の再婚、義父の暴力、初恋などを経験し、大人になっていくメイソンは、やがてアート写真家という将来の夢を見つけ、母親のもとを巣立つ。12年という歳月の中で、母は大学教員になり、ミュージシャンを目指していた父も就職し、再婚して新たな子が生まれるなど、家族にも変化が生まれていた。
映画.comより






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