2015年5月20日水曜日

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇


Narco Cultra
2013/米・墨 上映時間103分
監督:シャウル・シュワルツ
製作:ジェイ・バン・ホーイ
ラース・クヌードセン
トッド・ハゴピアン
撮影:シャウル・シュワルツ
編集:ブライアン・チャン
ジェイ・アーサー・スターレンバーグ
音楽:ジェレミー・ターナー



95点








”ベッドサイドのバズがせめての救い”





シアターイメージフォーラムにて鑑賞。
観賞後、シネマカリテに行き『22ジャンプ・ストリート』を観ようと思っていたんですが、それは流石に無理だった。今作を観た後だと笑える気がしない。
それでもそのまま帰るのも気分をそのまま引きづりそうなので、徒歩で六本木まで行きスター・ウォーズ展でお茶を濁す。

メキシコは今、麻薬カルテル同士の縄張り争いと、それを取り締まる政府との三つ巴の武力紛争中。2006年に政府が「麻薬戦争」と銘打ち組織に宣戦布告。その紛争で今現在12万人以上が死亡している状態。

話には聞いていたけども、実際の光景を見るとその様にただただ圧倒されるのみ。






副題の”メキシコ麻薬戦争の光りと闇”
これが比喩でも何でもなく戦争そのものだった。

映画序盤、画面に映るのは麻薬組織に無惨に殺害された者の死体。
モザイク無しで映るその様子をただ唖然と眺めるのみ。
座席を座り直し、背筋を伸ばして鑑賞しようと深呼吸。

映画は、麻薬カルテルの紛争真っ只中の街に勤務する一人の警察官の奮闘と、方や麻薬組織を反体制のヒーローとして称える「ナルコ・コリード」と言われる音楽ジャンル、そのミュージシャンの姿を平行して映し出します。
この両者の対比が恐ろしい程にメキシコの今を浮かび上がらせる。

街を守ろうとする警察官。
毎年3000件の殺人事件が起き、そのほとんどが未解決のまま終わる、抗争の最前線の街で、信念を持って任務を全うしている彼。
親からも身の危険を心配され辞めるよう言われても彼は警察官であろうとします。
何が彼をそこまで突き動かすのかと言うと、街を守っているんだという使命感と、かつての街の姿に戻したいという気持ち。それが彼を動かす信念。

国境を超えた直ぐ隣はアメリカの土地。しかも国内で一番治安の良い州。
彼は休みの日になると来るまでこの国境を超え買い物へ出掛けます。
その姿を見て、何処か違う場所に移り住めば良いのに、という無責任な我々の考えを、やっぱり古郷は落ち着く、という彼の言葉が掻き消します。
勤務中の休憩時間。
仲間との談笑中、ぽつりと、昔のような街に戻るよなと皆に話しかけます。
その翌日、その中の仲間が組織から見せしめとして殺害されたことが分かります。
いつ自分がこうなってもおかしくない。
その状況に追い打ちを掛けているのが、なんと警察内部も一部の警察官が麻薬組織と関係を持っている腐敗している状況だと言うこと。

このまるでフィクションのような過酷な状況が、今もメキシコで起こっているのです。






一方で、麻薬組織を反体制の英雄と称える「ナルコ・コリード」と言われる音楽が大流行。ポップカルチャーとして麻薬カルテルが受け止められてもいるのです。
人気バンドの中には映画に出演する者もいて、その撮影風景も映されます。
そこで彼が演じたのが銃撃戦から、撃たれ、死ぬシーン。
ここで冒頭から度々映される死体がまた効いてくる

つまり、麻薬組織の活動を飯の種にしている歌手と、抗争の中で何とか正義を貫こうとしている警察官の残酷な構図が浮かび上がり、怒りと呆れを通り越して、何とも言えない無力感が襲ってくる。

麻薬抗争の歌を歌っていながら、歌詞はネットから集めた情報。安全な都心でレコーディングし、現地のスラングの空気が分からないからと抗争が行われている土地に行き、暢気にその様子を動画サイトにアップする。
彼等は、実際には安全圏からただ格好をつけているただのボンクラなのです。
腰に下げている観賞用の銃を遊び半分で撃つ彼等の滑稽さが皮肉に満ちています。






現地の新聞記者へのインタビュー。
ナルコ・コリードが若者に流行っている今の状況を問われると、メキシコの腐敗を表していると答えます。
麻薬戦争が文化として流行している今のメキシコ。
今作のエンドロールで流れるナルコ・コリードのなんと皮肉なことよ。

それでも、メキシコ麻薬戦争の光りと闇。その光。
信念を全うする警察官の自宅のベッド横には『トイ・ストーリー』のバズの人形が置いてありました。
過酷な状況の最中でも、少なくとも彼のなかでエンターテイメントがまだ機能しているんだというところに、ほんの少しホッとしたり。



<あらすじ>
ロバート・キャパ賞を受賞したイスラエル出身の報道カメラマン、シャウル・シュワルツ監督が、メキシコ麻薬戦争に迫ったドキュメンタリー。石油の輸出総額が300億円に上るメキシコは、世界10大産油国の1つに数えられるが、麻薬産業でも石油と同規模の輸出額があると推測されている。政府は2006年から麻薬組織撲滅の「麻薬戦争」を遂行するも現状を変えるには至らず、6年間で12万人もの死者を出す。その一方で、麻薬密輸ギャングをアウトローのヒーローとして受け止める人々も現れ、「ナルコ・コリード」という音楽ジャンルでは、麻薬カルテルを英雄として称えている。麻薬ギャングの讃歌を歌い人気を集めるナルコ・コリード歌手や、麻薬から街を守ろうと奮闘する警察官らの姿を通し、メキシコ麻薬戦争の光と影を浮き彫りにする。
映画.comより


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