『海霧 Haemoo』
2014/韓 上映時間111分 R15+
監督:シム・ソンボ
脚本:シム・ソンボ
ポン・ジュノ
製作:ポン・ジュノ
チョ・ヌンヨン
キム・テワン
製作総指揮:キム・ウテク
撮影:ホン・ギョンビョ
キャスト:キム・ユンソク
パク・ユチョン
ムン・ソングン
キム・サンホ 他
88点
”「女は船に乗せるな」”
全くの前情報無しに鑑賞したら、なんだこれは!?
こんな映画だなんて知らなかった…、楽しかった!!
それと元東方神起の方が出演しているなんて知らなかった…。(通りで劇場が大入りだった訳だ)
鑑賞前の勝手なイメージで、淡々としたタッチのヒューマンドラマだろうぐらいに思ってたんですが、これが何とガッツりジャンル映画的な盛り上がり満載のサスペンスホラー。
映画冒頭。漁船で働く面々をテンポ良く見せるタイトルクレジット。
ここで彼等の疑似家族性が浮かび上がりつつ、映画後半の展開に繋がるそれぞれの、特に船長の家庭環境が明らかになります。彼は妻には浮気され、妻はそれを既に隠すでもなく、彼も責め立てたりしません。
要するに、彼にとって居場所は船の上のみだということ。
その彼のギリギリの精神状態がひっくり返り、映画全体もひっくり返る急展開を見せるのが中盤のある展開。
違法な仕事として密航者達を送り届けていたいたはずが、何と隠れていた魚槽の中で全員が死亡。原因はガス漏れ。
この展開ははっきりとアレハンドロ・G・イニャリトゥの『ビューティフル』の嫌な記憶を思い出しました。弱い者が事故的とは言え犠牲になるのは最悪だ。
ここから海全体に霧が。
船員は事故を隠蔽しようと、死体を切り刻み魚の餌にしようとします。
この手口は正に園子温『冷たい熱帯魚』
状況に影響されて段々と精神を病んでいく面々の姿は、霧も含めて正に『ミスト』
ここまでで、『ビューティフル』『冷たい熱帯魚』そして『ミスト』的な見せ場のてんこ盛り。この時点で最高に楽しい映画です。
そして、その事故から唯一生き残ったのが、一人機関室にいた女性。
この女性が後半の中心の存在になっていきます。
後半、彼女が船において中心的存在になります。
彼女を守りたい者、彼女を犯したい者、彼女を殺したい者、それに続く者。
ここで冒頭での船長のとある台詞が頭を過ります。
密航者達を船に移す場面。船長が「女を船に乗せるのか…!」と呟きます。
その場面ではただの小言に思えたこの台詞も、後半になると意味が変わってくる。
つまり、船長にとってはここしかない、疑似家族的な船の上の繋がりを彼女が乱すかもしてない。そして現に今、事故的であれそうなってしまっている。
事故が起こる手前、機関室にいた女性が何かレバーに触れて煙が吹き出すシーンがあるんですが、このシーンはその後何の説明もありません。
この行動が事故に繋がったとも取れるシーン。意識的ではないにせよ、彼女が事故を起こしたのか??
船長の言葉はある意味で正しかった。
映画冒頭で、口答えをする密航者の一人への仕打ちが過度に暴力的だったことに見られたように、既に崩壊寸前だった彼の精神状態は遂に崩壊。
そして展開は『シャイニング』へ。
ここからはもうホラーです。
そしてこれが、もう『シャイニング』なんだから最高に楽しい…!!
インタビューで船長役を演じたキム・ユンソクは「何とか家庭を立て直そうとする父的な存在として演じた」と語っています。
船員の疑似家族的な関係を乱す女。
暴力でもってそれを立て直そうとする父。
その狂気の姿にホラー的に旋律が走ります。
ああ恐ろしや。
ラスト。
簡単な後日談が付くんですが、正直これは蛇足だろと思いながら見ていたら、絶妙なタイミングで幕引き。
なるほど。切ないようにも思えますが、自分が救った命が確かにそこにいて、また新しい命が生まれている。切ないようでいてしっかり希望もある爽やかな終わらせ方。
ジャンル映画的な見せ場、盛り上げ方てんこ盛り。陰惨なバイオレンス展開もありつつ、最後は爽快さすら感じさせる。
娯楽映画として大いに楽しめました。
<あらすじ>
2001年に韓国で実際に起こった「テチャン号事件」を題材にした舞台劇「海霧(ヘム)」を映画化した。不況にあえぐ漁村の漁船チョンジン号の船長チョルジュは、中国人の密航者を乗船させるという違法な仕事に手を出してしまう。沖合で密航船と合流し、密航者たちを乗り換えさせて陸まで運ぶという簡単な仕事のはずだったが、海上警察の捜査や悪天候に阻まれ、思いもよらない事態へと発展していく。
映画.comより
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