『Inherent Vice』
2014/米 上映時間149分 R15+
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
製作:ポール・トーマス・アンダーソン
ダニエル・ルピ
ジョアン・セラー
音楽:ジョニー・グリーンウッド
撮影:ロバート・エルスウィット
編集:レスリー・ジョーンズ
キャスト:ホアキン・フェニックス
ジョシュ・ブローリン
オーウェン・ウィルソン
キャサリン・ウォーターストン 他
96点
”内在する欠陥が夢を終わらす”
お話が分かりづらい、という声を多く聞いていたり、前作の『ザ・マスター』が個人的にちんぷんかんぷんだってりしていたので、事前に原作「LAヴァイス」を半分まで読み、PTAの過去作を観たり、おまけに『容疑者、ホアキン・フェニックス』まで鑑賞した状態でヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞。
結果的にこれが功を奏してとても良い鑑賞が出来ました。
もし原作に手を付けていなかったら今作もちんぷんかんぷんだったかも…。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』直系の、ある時代を鮮やかに切り取った傑作!
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』が”資本主義の暴走の開始”を寓話的に時代ごと切り取った作品だとするならば、今作で描かれているものは”夢の終り”。
60年代に端を発するヒッピームーブメントが終りを告げるその最後のあがきを、太陽が降り注ぐノワールとして仕上げたのが今作『インヒアレント・ヴァイス』
「インヒアレント・ヴァイス=内在する欠陥」とは何なのか。それは、時代が元々内包していた、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようなもの。
つまり、ヒッピームーブメントに代表される反体制的な運動が、自らが元々内包していた欠陥(=インヒアレント・ヴァイス)によって終りを告げる。”ロックで世界が変えられなかった”のです。
劇中で主人公ドックを”闇の世界”へ誘うファムファタール、シャスタフェイ。彼女が象徴するものこそこの”内在する欠陥”。「私は内在する欠陥。だから保険が掛けられなかったの」という彼女の台詞。愛人の大富豪がシャスタと出会い、自らが持つ土地に家を建て無償で貸し出そうとする計画の最中、彼は何者かに拉致され、シャスタは元恋人の探偵ドッグを頼ります。
やがて行方不明だった大富豪は発見され、計画は中止。そして、シャスタがもとのヒッピー姿に戻り、ドッグのところへやって来た時に発するのが前述の台詞。
物語が終わってもその全貌は明らかにされない「黄金の牙」が象徴するものが、アメリカを影から牛耳っている体制そのもの。次にやってくる80年代的なものとも置き換え可能かもしれない。
原作に繰り返し登場する、チャールズ・マンソンの一派が起こした無差別殺人事件。
そして、同年に起こった「オルタモントの悲劇」。
ヒッピームーブメントを決定的に終わらせる引き金になったこれらの事件。
それらは元々時代に内在していて、いつ表出してもおかしくなかったもの。
そしてまた、全貌の掴めない”体制”がやってくる。
今作『インヒアレント・ヴァイス』は、そんな夢が覚めかけている時代に、主人公ドッグが、サンダルとパーマ姿で、時にクスリをキメながら、時代の向こう側にうごめく闇に触れ、最後にはなけなしの勝利をもぎ取るラリラリノワールなのだ。
原作はトマス・ピンチョン著の小説「LAヴァイス」。今作は彼が初めて許した初の実写化作品。
インタビューによると、実写化するにあたってPTAが参考にしていたのが、アメリカのテレビドラマ「フライング・コップ」とのことなんですが、これがナンセンスが極まりすぎたスラップスティックコメディ。PTA、掴めない男である。
ただ、これが今作『インヒアレント・ヴァイス』の世界観に見事ハマっている。
画面内でいくつものことが起こっているごちゃ混ぜ感が、70年代的な雰囲気にマッチしているし、映画全編がクスリをキメてトリップしているような感覚になっている。
劇中の表現を借りるならば、とてもグルーヴィ。
そして何より、PTAの過去作のどれとも似ていないこと。そして、原作が持つ取り留めの無い、だけど確かに実体の無い何かに絡めとられている感覚そのものを映像として味わえる。見事と言う他ありません。グルーヴィ。
役者陣の演技は言わずもがな。
今作でも音楽を担当したレディオヘッド、ジョニー・グリーンウッドの音楽も相変わらず素晴らしい。サントラ購入済み。
そして強調したいのが、ポスターアートの素晴らしさ。
個人的にドンピシャで好きなデザイン。今の所の今年ベストポスターです。
登場人物が多くて、最終的に物語の全貌も掴めない。
ノワールって元々そういうもんだと言ってしまえばそれまでですが、何よりコメディでもあるから思いっきり笑って下さい。
そして原作を読めば完璧。
大丈夫!本を読むのが猛烈に遅い私でも読めたのだから。
<あらすじ>
「ザ・マスター」のポール・トーマス・アンダーソン監督とホアキン・フェニックスが再タッグを組み、米作家トマス・ピンチョンの探偵小説「LAヴァイス」を映画化。1970年代のロサンゼルスを舞台に、ヒッピーの探偵ドックが、元恋人の依頼を受けたことから思わぬ陰謀に巻き込まれていく姿を描いた。元恋人のシャスタから、彼女が愛人をしている不動産王の悪だくみを暴いてほしいと依頼された私立探偵のドック。しかし、ドックが調査を開始すると不動産王もシャスタも姿を消してしまう。ドックはやがて、巨大な金が動く土地開発に絡んだ、国際麻薬組織の陰謀に引き寄せらていく。共演にジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロ。
映画.comより
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