『さよなら歌舞伎町』
2014/日本 上映時間136分 R15+
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
中野太
製作:藤岡修
製作総指揮:久保忠佳
音楽:つじあやの
撮影:鍋島淳裕
キャスト:染谷将太
前田敦子
松重豊
南果歩 他
63点
”勿体ない、勿体ないよ…。”
もうすっかり少女漫画原作の職人監督的な仕事が目立つ廣木隆一監督。
積極的に観るジャンルではないのであまり作品を観たことはないのですが、正直良い評判はあまり聞きません。とほほ。
ただ、元々ピンク映画出身で当時の若手の筆頭だった廣木隆一。
もちろん中には良い作品もあるんですよ。
今回、そんな廣木隆一監督が久々にオリジナルの新作、脚本を荒井晴彦が担当すると聞いてまずその時点で期待大でしたし、主演は染谷将太と前田敦子。舞台は歌舞伎町のラブホテル。そこに集まる人々をグランドホテル形式で描いた群像劇。
こんな鉄板な題材とキャスト、面白くない訳が無いだろとテアトル新宿へ向かいましたよ。
結論から言うと、なんでこんな中途半端な映画になった…。
廣木隆一、荒井晴彦タッグの作品と言えば、個人的には大森南朋、寺島しのぶ主演の『ヴァイブレータ』
これが今観返しても凄く格好良い作品で、どこにでもある地方の国道沿いもちゃんと画になる風景になってるし、行きずりの若い男女が大型トラックで旅をしてるだけでもしっかり見応えのあるお話になってる。
『ヴァイブレータ』、ロードムービーとしてかなりキレの良い秀作なんですよ。
ただ今作『さよなら歌舞伎町』、そのキレはどこへやら。
まず、群像劇としての語りのテンポが重い。
その原因が無意味なワンカットの多用。
例えば、アン・チョイスさんとイ・ヘナさん演じる韓国人カップルのエピソードでの、湯船に浸かりお互いの心情を吐露し合うシーン。
ここが本当に無駄に長い。恐らく演技指導等の演出は入れずに即興に近い形で撮ったのでしょう。急にドキュメンタリックな雰囲気になって、このシーン全体が浮いてるんですよ。
目の前で起きてる生々しさを優先させる意図は分かります。
ただ、そのせいで映画全体の語り口が重くなっては本末転倒。
生々しさを優先させたと言えば、我妻三輪子さんと忍成修吾さんのエピソード。
このエピソードに関しては、過去の身の上話を全て台詞で説明。それに感化されてヤクザの忍成修吾さんが急に改心したりとお話としてかなりの飛躍があったり、気になる箇所が多いんですが、確かにキュートなお話ではあるんですよ。特に我妻三輪子さんがとてつもなくキュートなんですよ。
ただ許せないのは、忍成さんがベッドの上に散らばったチキンナゲットを投げ捨てること。ここが前述のワンカットの長回しで収められてるんですけど、チキンナゲットが重要なアイテムになってるこのエピソードでそれは駄目でしょ。
なぜこんなことが起こるのかと言うと、それは役者さんへの演出が付いてないからですよ。
生々しさを優先させた結果キャラの性格がブレてしまうのは、もう一度言いますけどそれは本末転倒ですよ。
こう言った無駄な長回し、それによる雑な演出が随所に見られてかなり残念。
確かに『ヴァイブレータ』でも長回しは使われてました。
でも、あれは登場人物がほぼ2人だから、その分2人の関係に焦点を絞ったリアルなものとして正解だけども、こちらはただでさえもテンポが要求される群像劇。
面白くなりかけても急に語り口が鈍くなる。その繰り返し。
そもそもの語り口を間違えてる気がしてなりません。
お話自体どれも似たり寄ったりに辛気くさい話ばかりでメリハリ無し。
訳ありな人が集まってくる、その”歌舞伎町感”は分かります。
ただ、6つあるエピソード。その全てが感傷的で辛気くさい。
何かサクッと笑える小さなエピソードでも挟んでテンポを生むとかないものなのか。
どれも同じ比重で語ろうとしても、似たエピソードの連続だからお話にメリハリがなくて逆に重くなるだけ。
肝心の中身も基本過去は台詞で語られて、心情吐露も台詞で済ませるもんだから物語に奥行きも何も無し。
その状況に共感は出来ても、キャラに感情移入は全く出来ません。
かなり文句多めですが、凄く良かったと思うシーンが一つ。
それがラストでの前田敦子さんの演技。
明け方の神社に座り込む染谷将太に、一旦強気に出ておきながら、もうどうにもならないと分かった瞬間に弱気になる、あの表情と声の変わり様が凄く良い。
ここのシーンに関してはワンカットが効果的で、一緒に付いてくるのかと思ったら、一人奥に歩いていく染谷将太を同じフレームで収めることで、前田敦子さんの変わり様がよりリアルに迫ってくる。
凄く良いシーンでした。
ラストの着地も好み。
ずっとこの街に居る訳にはいかない。みんなそれぞれに、いつかは出て行かなければならない。あの明け方の新宿の徒労感含めて凄く好きです。
震災、ヘイトスピーチを取って付けたように映画に盛り込むなと言う批判を目にしたんですが、もう当たり前の日常の光景なってしまった、背景として映り込んでるものとして個人的には違和感はありませんでした。ただ、震災に関してはお話にも絡んでくるので、取って付けた感は確かにありますが。
廣木隆一監督。
今年はあと2本の新作映画が公開されるらしいですが、この感じだともう観に行くことは無いでしょう。
脚本の荒井晴彦さん。映芸の年間ランキングも相変わらず良く分からないことになってますし、かなり眉唾。
<あらすじ>
映画.comより
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