『野火』
2014/日本 上映時間87分
監督・脚本・編集:塚本晋也
製作:塚本晋也
撮影:塚本晋也
林啓史
音楽:石川忠
サウンド・エフェクト:北田雅也
サウンド・ミックス:北田雅也
キャスト:塚本晋也
リリー・フランキー
中村達也
森優作 他
95点
”もう戦う相手すらいない戦場で狂う”
渋谷のユーロ・スペースに鑑賞。
映画においては、大文字の”反戦メッセージ”より、飛び散る内蔵、鮮血、引き千切れる手足こそが雄弁にそれを語るのだと、改めて実感しました。
必見の大傑作!!
戦うのは飢えと孤独。
もはや戦う相手すらいない戦場で、同胞にも見放され、ただひたすらフィリピンの地をさまよう田村。
飢えと孤独が彼を追い詰め、予期せぬ殺人、人肉を食す同胞の姿が彼の精神を狂わせます。
それらをダイナミックに、燃え盛る小屋に立ち上がる炎や、極彩色の草花等々の映画的に贅沢な画と、淡々とさまよい歩く描写の緩急で見せつけます。
そして突如訪れる中盤での容赦の無い人体欠損描写。
味方部隊と合流する唯一の道で待ち伏せをされ、暗闇の中機銃の集中砲火。
飛び散る内蔵、鮮血。えぐれた顔面、引きちぎられる手足。なす術も無くやられるしかないその様は正に地獄絵図。
どんな言葉よりも雄弁に語る圧倒的なパワーです。
容赦の無い描写です。だからこそ生を感じる。引きちぎれた手の痛みを確かに感じます。
映画的なダイナミズムは『鉄男』と同じ。
容赦なく、だからこそ全編に力が漲っている。
本作、構想に20年を費やしながらも出資が得られず、塚本監督の自費で撮影を行った自主映画。製作スタッフ等はTwitterで募り集めたそう。
まず塚本監督のこのバイタリティに拍手。
と同時に、今作にお金が集まらない日本映画界の現状に溜め息。
『永遠のなんたら』にあれだけのお金が集まって、何故今作が自主体制での製作なのか。
理由は考えるまでも無いことですが、情けない、情けない。
映画を比べてどうこう言うのはあまり良くないとは分かっていても、出来上がったものの出来の違いと訴えかけるものの違いに、溜め息は止まりません。
ラスト、日本へ帰って来た田村の描写で映画は終わります。
暗い部屋で電気も付けずに机に向かいものを書いている田村。
妻がそこに食事を運び、部屋を出る。何かの不審さに気付き、ふすまの隙間から彼を覗くと、常軌を逸した動きで食事を取る田村の姿が。
食事を終え、外に出ると、そこにはフィリピンの地で目にした野火の姿が目の前に。
戦争が決定的に彼の中の何かを変えてしまった。
それは一生付いて回る。
<あらすじ>
結核を患った田村一等兵は部隊を追放され、野戦病院へと送られる。しかし、野戦病院では食糧不足を理由に田村の入院を拒絶。再び舞い戻った部隊からも入隊を拒否されてしまう。空腹と孤独と戦いながら、レイテ島の暑さの中をさまよい続ける田村は、かつての仲間たちと再会する。戦場という異常な空間で極限状態に追い込まれた人間たちが描かれる。
映画.comより
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