『Carol』
2015/米 上映時間118分
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
製作:エリザベス・カールセン
スティーブン・ウーリー 他
製作総指揮:テッサ・ロス
ドロシー・バーウィン 他
撮影:エド・ラックマン
美術:ジュディ・ベッカー
原作:パトリシア・ハイスミス
キャスト:ケイト・ブランシェット
ルーニー・マーラ 他
96点
”欲望の正体”
一回目を観た直後、なんとも居心地の悪い気持ちになり、その次の回で続けて鑑賞。
てっきり、美しい人が織りなす美しい愛の物語だと思っていたところ、そんな安全圏からの落ち着いた鑑賞を拒否させる、人間臭く、とても身近な物語でした。
映画全体の撮影、美術、衣装、役者の演技、どれも美しく素晴らしい。
エドワード・ホッパー的な画の構図と、そこにのせる色使い。
ショット単位でどれも大変素晴らしいです。
ただ、これらがもっと素晴らしいのは、技巧的なルックの良さで映画を完結させずに、その奥にある人物の内面とリンクしたものだということ。
ショットの中での人物の切り取り方で人物の孤独感を表現したりだとか、衣服の色で内面の感情を表したりだとか。
例えば、テレーズとキャロルが旅に出た直後のダイナーでの食事のシーン。
そこで彼女たちが着ているカーディガンの色の対比だとか、ラスト直前、すっかりしらけたパーティから一人抜け出すテレーズが、街で佇むショットの画面内での配置の仕方と切り取り方。
画的にも美しく、かつ映画的な心理描写とも直結してる。
全てのショットがこの二つの意図を両立していると言ってもいいくらいで、驚異的な上に、何よりも美しい。
そして映画を観ているという快感もあるし、感情移入するにつれ美しさと物語にのめりこめる。
そこで描かれる物語も、普遍的で身近なものだと思うんです。
つまり、自分の中の相手への愛情に気がつき、何かが始まること。
テレーズは最初、自分の中の感情に気がついていません。
でも、何か圧倒的な他者に憧れて、惹かれて、それが愛情に変わっていく感覚はものすごくよく理解できますし、共感もできます。
だからこそ、キャロルの家でクリスマスを過ごせると内心意気揚々と出かけ、その内に、自分なんかじゃ対処できない相手の圧倒的な他者性を突きつけられ、自分の不甲斐なさに涙する。そのシーンの切実さにどうも胸がざわつく。
そこでやっと相手への感情に自覚的になる。と同時に、相手との絶対的な溝も感じそのどうしようもなさに途方にくれる。
そこで巧いのが手練れキャロルの電話。
彼女は反対に、自分の感情に自覚的なのでしょう。
娘へ向けられない愛情を、テレーズに向けていたのだとも思います。
依存的な感情も少なからずあったでしょう。
キャロルがテレーズに提案するのが車での小旅行。
ものすごく刹那的な逃避行に、待っているものは良からぬ結末と相場が決まっています。
そこすらもキャロルは知っていたのだと思います。
突き放されたテレーズと、キャロルとの決別。
数日後、キャロルは街ですっかり雰囲気の変わったテレーズを見かけます。
あの頃の幼かった少女が、キャロルとの出会いを経て大人になった成長と見るのが普通だと思うんですが、個人的な見立てだと、憧れの人になりきることで心の平穏を保つような心理状況だとも思うのです。
キャロルの誘いに一瞬ためらいつつも断りをいれるテレーズ。
呼ばれたパーティへ行く道中、車の中から送るキャロルへの視線。
自分の居場所がここにはないことに気がつき、キャロルの元へ向かうテレーズ。
キャロルとテレーズ、視線が交わりあったところで映画は終わります。
対等な関係になったふたり。
何かの始まりを予感させ、もしかしたらここが絶頂かもしれないふたりの関係。
この切れ味もまたいい。
<あらすじ>
52年、冬。ジャーナリストを夢見てマンハッタンにやって来たテレーズは、クリスマスシーズンのデパートで玩具販売員のアルバイトをしていた。彼女にはリチャードという恋人がいたが、なかなか結婚に踏み切れずにいる。ある日テレーズは、デパートに娘へのプレゼントを探しに来たエレガントでミステリアスな女性キャロルにひと目で心を奪われてしまう。それ以来、2人は会うようになり、テレーズはキャロルが夫と離婚訴訟中であることを知る。生まれて初めて本当の恋をしていると実感するテレーズは、キャロルから車での小旅行に誘われ、ともに旅立つが……。
映画.comより
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