2015年3月7日土曜日

幕が上がる


幕が上がる
2015/日本 上映時間119分
監督:本広克行
脚本:喜安浩平
製作:片山玲子
守屋圭一郎
音楽:菅野祐悟
撮影:佐光朗
原作:平田オリザ「幕が上がる:

キャスト:百田夏菜子
玉井詩織
高城れに
有安杏果
佐々木彩夏

90点






”宇宙の涯てには行けないけど、その切符は持ってる”






確か去年のこと。
劇場で掛かっていた上映前の予告編にこの作品も入ってまして、へぇーももクロも映画撮るんだと、ぼんやり眺めていると、そこに監督本広克行の文字が。
ゲッ!!
何となく興味持ったのに明らかな地雷じゃないかと、観る前から失礼な態度を取っていたんですが、これがいざ観ると全力で力を込めて頭がめり込むぐらい土下座。
一度鑑賞してその魅力にやられ、原作を読み、2度目の鑑賞にも行きました。

本当にすみませんでした…!!
アイドル映画の殻を破った全うな青春映画の良作。
作品の出来以上に、個人的に凄く大切な一本になってしまいました。

因に私はモノノフではありません。






まず何より、そもそも原作が物凄く良い…!!!!
と言うところから話を始めなければならない。

地の文が主人公の一人称視点の口語体で書かれていて、その語り口も瑞々しいし、仲間同士のやりとりも凄く気持ちいい。

正直、今回の映画化でこの原作の語り口が持つ魅力が薄まってしまっているとは思います。
ただ、そこは『桐島』の脚本喜安浩平。映画用の構成が凄くハマってる。
「銀河鉄道の夜」にこの作品が持つメッセージを全て託したのは大正解。

中盤のさおりと中西さんの駅のホームでのやりとりから、実際に彼女達が行う舞台「銀河鉄道の夜」、国語の授業での先生の言葉。そこからの皆を奮起させる部長のスピーチと、映画全体が「銀河鉄道の夜」で貫かれていて、そのメッセージが繋がるラストはお見事。

原作の静かな余韻も凄く良いんですが、映画的な余韻であればこの構成で間違い無し。


原作の枝葉に当たる部分は無くなってしまっている。
その隙間を埋めるのが今作の主役ももクロちゃん達の溢れる魅力と、彼女達の成長。
彼女達含めた演劇部の人達が本当に楽しそうなんですよ。
撮影に際して演劇のワークショップを行ったそうなので、連帯も生まれていたんでしょう。とにかく彼女達のその雰囲気だけでもうやられる。見ているだけで多幸感。
それを引っ張っていくももクロちゃん達。
彼女達がもう、良い!!!

おどけたような演技は一切無し。
真摯に誠実に作品と向き合って、良い映画にしようとする心意気がドキュメンタリックに映画全体に漂ってる。正にアイドル映画的魅力がスパークしてる。

ただ、そんなアイドル映画の殻を破る瞬間がこの作品にはあって、それが終盤での美術室での部長のスピーチシーン。これが本当に素晴らしい。
誰かをこれ見よがしに泣かせたり、大仰な見せ方は一切せず、ももクロ百田さんの真に迫った演技を信頼した演出。「銀河鉄道の夜」の引用も良い。彼女達の表情を捉えるカメラも良い。

その後団結した彼女達の姿を捉えつつ、カメラがパンしながら奥の美術準備室を映すショット。
こんな上品で抑制の効いた演出出来たんだ、本広さん。

ここから映画はクライマックスへ向かいます。






私がこの映画で打ちのめされたのはそのラスト。
まさに幕が上がる瞬間。
ラストのキレは言わずもがな、そこに至る主人公さおりの独白にやられてしまった。

前述の美術室のシーンから何なら泣いてるんですが、クライマックス、割り切れない思いを抱えながらある一つの答えにたどり着く彼女の言葉。

先生が取った行動に対して、理解は出来るけど、納得は出来ない。でも…!!
この”でも”を含んだ、納得出来なさも全て含んだ彼女の答え。
まだ何者でもない、でも舞台の上でなら何者にでもなれる、少なくともその可能性は秘めている、それが私達の姿なんだと胸を張るラスト。
そして幕が上がる。

なんて真っ当なメッセージなんだ。






気になる所と言えば、画の奥で何かを動かしたがる本広監督の悪い手癖。
これが本作だと本当にやかましい。
ワンポイントのカメオ出演も本当に余計。
作りが真っ当な分ノイズとして際立つ。

が、そんな粗も、エンドロールで歌って踊っているももクロちゃん。楽しそうに撮影を楽しんでいる光景を観れば、些細なことだと思ってしまう。
多幸感…!!

アイドル映画の殻を破った、真っ当な青春映画。
所詮ジャンル映画だと侮ることなかれ。

大切な一本になってしまった。



<あらすじ>
北関東にある県立富士ケ丘高等学校。演劇部所属の高橋さおりは、まもなく演劇部最後の一年を迎えようとしていた。個性的な部員たちとともに、年に一度の大会で地区予選突破を目標に掲げたさおりだったが、東京の大学で演劇をやっていたという美人の新任教師・吉岡先生に後押しされ、全国大会を目指すことになる。
映画.comより




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