『American Sniper』
2015/米 上映時間132分
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール
製作:クリント・イーストウッド
ロバート・ロレンツ 他
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
ゲイリー・D・ローチ
原作:クリス・カイル「ネイビー・シールズ 最強の狙撃手」
キャスト:ブラッドリー・クーパー
シエナ・ミラー 他
90点
”死んだ英雄に口無し”
本国で特大ヒット。日本でも興収二週連続1位のヒット。
今でも客入りは上々の様子。
思うに、この作品のテーマ以上に、予告の引きが相当強かったことが大きな理由だと思うんですが、いずれにせよこう言った硬派な映画にお客さんが入るのは嬉しいこと。
本国では大論争が巻き起こってました。
議論を生むタイプの映画であることは間違いないのですが、それを一旦置いておいても傑作であることには違い無し。
映画冒頭。クリス・カイルの第一回イラク派兵、その任務の最中から映画はスタート。
予告でピックアップされていた、手榴弾を持った子供を撃つのか否かの葛藤から物語が始まり、そこから一旦時制が過去に戻り、彼の幼少時代へ。
そこから、彼がアメリカ南部の保守的な地域で育ち、子供の頃から猟銃を扱い、父から羊、狼、番犬の教えを受けていた挿話を軽快に描くこの冒頭の一連のシークエンスで物語の下地はバッチリ。
そこから物語は、クリス・カイルの入隊、派兵と繋がり、冒頭のシークエンスへと繋がっていきます。
この話運びの軽やかさは相変わらず流石の一言。
映画中盤での、戦地前線と妻のいる米国を電話を介してカットバックする演出も印象的。
夫を戦地を送る家族もまたそれ相応の葛藤を抱えているのだということを強烈に伝えるこのシーン。
このシーンによって今作の、一歩間違えると右翼的にも観られかねない映画全体のトーンのバランスを取っているとすら感じます。
今作がプロパガンダ映画なのか反戦映画なのか。
この論争に関しては当のイーストウッド自身が既にインタビュー等で語っている通り、彼は元々イラク戦争に関しては一貫して反対のスタンス。今作はクリス・カイルの物語であり、戦場と家族との間で板挟みになるその葛藤の中にドラマを見たと語っています。
つまり、プロバカンダでは決して無く、大文字の反戦も訴えていない。
ただありのままの、戦争に翻弄された”英雄”と呼ばれた一人の男と、同じように葛藤にまみれたその家族の物語が今作。
具体的に言うならば、様々な方が指摘している通りPTSDのことでしょう。
ただ、ここで話をかなり拗らせているのが、映画製作段階でのクリス・カイルの死。
彼の死によって映画の方向が変わったことは間違いなく、英雄と呼ばれた彼が映画の最後で死を遂げれば、そこに少しでもヒロイックな雰囲気も漂ってしまうでしょう。
そして、戦争映画としてストレートに面白いことも少し話をややこしくしているのかも。
劇中、クリス・カイルの対になる存在としてイラク側にも凄腕のスナイパーが登場。
この2人の対決の盛り上がりがなんとも西部劇チックで。
明確な反戦のメッセージはないけれど、”英雄”呼ばれた彼は帰還後、後遺症に苦しみ、そして同じように苦しんでいた仲間に殺されて、死んだ。
この連鎖の元を辿ると…。
最後のクリス・カイルを弔う米国民達の映像は皮肉のようにも受け取れるし、直後のエンドロールの無音は、イーストウッドから我々への考える時間だと捉えました。
いずれにせよ、解釈が開かれている点が大きな魅力。
だからこそこんなにも大ヒットして、論争を起こしたのでしょう。
なんか真面目な自分が嫌だ…!!
気楽な映画が今は観たいかも。
ただ、間違いなく傑作。
<あらすじ>
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。
映画.comより
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