2014年9月4日木曜日

喰女 -クイメ-


喰女 -クイメ-
2014/日本 上映時間94分 PG12
監督:三池崇史
脚本:山岸きくみ
製作:遠谷信幸
製作総指揮:中沢敏明
音楽:遠藤浩二
撮影:北信康
編集:山下健治
原作:山岸きくみ「誰にもあげない」

キャスト:市川海老蔵
柴咲コウ
伊藤英明
中西美帆 他

86点



”海老蔵の自己批評精神、さすがっすね”





ある描写で、カップルでの鑑賞はとてもオススメできません。
私の後ろに座っていた男女も、とても良い雰囲気でお帰りになられていたご様子。

三池監督、そして市川海老蔵さん、流石です。
とても楽しく、そして所々身をよじらせながら鑑賞出来ました。

少々刺激の強い文章が続くので、苦手な方はご注意下さい。

















誰もが知ってる怪談の古典中の古典『東海道四谷怪談』が、劇中の舞台「真四谷怪談」の稽古とその外の現実の入れ子構造で進んでいく物語。

ここで面白いのは、現実の世界も劇中劇同様の人間関係であること。
つまり、主人公を演じる市川海老蔵が、欲むき出しで女を食いまくる。
そして、”虚構”である舞台上と、”現実”である日常が次第に重なり合って、さあ何が起こるのか。


劇中の舞台にて小岩さんを演じるスター女優の柴咲コウ。
彼女は、その恋人の市川海老蔵を相手役に推薦し大抜擢。
公私共に恋仲な訳です。

しかしですね、海老蔵氏は『四谷怪談』の伊右衛門同様欲深さを発揮して、彼女である柴咲コウの付き人から共演者の若手女優まで、周りの女を食いまくる。
でもそのことに薄々気付いてはいる柴咲コウ。
舞台上でもお岩として伊右衛門に裏切られ、現実でも海老蔵に裏切られ、彼女の中の嫉妬と愛と怒りの入り交じった感情が虚構と現実の境界が無くし、次第に”お岩化”していくのです。
この”お岩化”を映画秘宝では真魚八重子さんが”メンヘラっていく”と言う素敵な表現をされてました。






この”メンヘラっていく”過程の描写がなんとも秀逸でして。
例えば、柴咲コウが薄暗いキッチンで巨大な寸胴鍋で大量のパスタをぐつぐつ茹で、「食べる?」と問うシーン。
そしてその直後、海老蔵が他の女の所に行ったのだと気が付くと、またもや巨大な寸胴鍋を使い今度はキッチン中からかき集めたナイフやフォーク等の金属を鍋でぐつぐつ煮沸消毒。

何がどうしたと言う訳ではないんですが、これが何とも言えずおどろおどろしくて、正に怪奇映画の趣なんです。
作った大量のパスタを一人食べ口をソースで汚している柴咲コウの横顔なんか恐ろしくて堪りません。

で、その煮沸消毒した金属類を使った何をしたのか。
ちょっと痛々しい描写をしますよ。

彼女のお腹の中には海老蔵の子供がいるんです。
そのお腹の中の胎児を、風呂場にて煮沸消毒したフォークやナイフを使って自ら堕ろすのです。
タオルを噛み、股を広げ、苦悶の表情で突き刺す。
もちろん直接の描写はありませんが、次の瞬間うめき声と共に風呂場中に飛び散る鮮血。

後ろの座席で観てたカップルから小さく悲鳴が上がりまして、私も身をよじらせながら観てました。

浮気相手宅から帰宅した海老蔵を待っていたのは大量の血で汚れた床と、ベットに横たわる柴咲コウ。
海老蔵が布団をはがすと、白い服の下半身を真っ赤な血で染めた姿が。

恐れおののき後ずさりする海老蔵に、「私が至らぬばかりに、申し訳ないことでございます」とつぶやきながら床に這いつくばってにじり寄ってくる柴咲コウ。

恐怖から遂に首に手を回す海老蔵。

ここで暗転。
カットが変わり、いつもと打って変わって朝一で稽古場へ向かう海老蔵の姿。

劇中劇の稽古もクライマックスに向かい、遂にラストには虚構と現実が重なり合い、お岩の狂気が海老蔵に襲いかかるのです。

うらめしやうらめしや。






東映の撮影スタジオをフル活用した回転する舞台は実に贅沢でお見事な出来映え

柴咲コウ、新人の中西美帆の二人のつり目美人な感じが怪奇映画顔で良いし、なんと言っても今回は市川海老蔵。
自ら企画から関わってるだけあって役に対する理解度が図抜けてるし、何よりその色男ぶりを発揮する劇中の役からに、海老蔵氏以外に考えられないキャスティング。

この海老蔵氏の自己批評精神、さすがっす。
海老蔵先輩さすがっす。

中盤、柴咲コウが小道具のくしを勝手に持ち出した直後、脇に置いてある赤ん坊の人形が涙を流すのはこの映画のバランスとしてちょっと浮いてるんじゃないかなと少し思ったんですが、考えるとあそこから現実と虚構の境が曖昧になっていったのだと考えれば納得。
自宅にて小道具のくしで髪をとく柴咲コウは意識的に”お岩化”に向かっている訳ですから。

そう考えると、どこが現実でどこが虚構かは全てが曖昧。
あの恐ろしいラストでさえどっちかは分からない。

三池監督の映画には珍しく派手な演出や台詞回しは一切無し。
全編ぬめっとした空気に包まれていていい雰囲気。

派手な見せ場を期待すると肩すかし食らうかもしれないですが、怪談としてはこれで十分過ぎる程に満足。



<あらすじ>
歌舞伎俳優の市川海老蔵が企画・主演を務め、鶴屋南北の歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」をモチーフに、虚構と現実の境を超えた恐怖に陥る男の姿を描いたサスペンスホラー。監督は、海老蔵主演の「一命」でもメガホンをとった三池崇史。俳優の長谷川浩介は舞台「真四谷怪談」で主人公の伊右衛門役に抜てきされ、恋人でスター女優の後藤美雪と共演することになる。美雪の推薦もあって大役を射止めたにもかかわらず、共演女優との浮気を繰り返す浩介に対し、お岩を演じる美雪は嫉妬や疑心を募らせ、やがてその愛憎は舞台と現実との境界を超えていく。お岩を演じる美雪役に柴咲コウ、美雪の元カレの俳優に伊藤英明、新人女優役に中西美帆。
映画.comより





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