『Enemy』
2014/カナダ・スペイン 上映時間90分 R15+
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:ハビエル・グヨン
製作:ニブ・フィッチマン
M・A・ファウラ
製作総指揮:フランソワ・イベルネル
キャメロン・マクラッケン 他
音楽:ダニー・ベンジー 他
原作:ジョゼ・サラマーゴ「複製された男」
キャスト:ジェイク・ギレンホール
メラニー・ロラン
サラ・ガドン
イザベラ・ロッセリーニ 他
70点
”まんまと支配されてたってかい”
日比谷のシャンテで鑑賞。
噂通り、ラストでどよめきと悲鳴が上がりました。
私はと言うと、ただただ唖然
しかしこの煙に巻かれる感覚、全く以て嫌いじゃない。
パンフレットの高橋諭治さんのコラムから引用するならば、
"説明過多のわかりやすさより曖昧であることの豊かさを優先し”ですよ。
ただ、ズルい映画作るなぁ。
間違いなく予備知識がない方が楽しめます。
ネタバレ全開なのでご注意を。
なぜ自分と全く同じ人物がいるのか?
劇中に印象的に登場する蜘蛛はなにを表しているのか?
ラスト、なぜヘレンは蜘蛛に変わったのか?
ここら辺の”謎”に関してはパンフレットに鋭い考察(勿論解釈として断定はされてませんが)が載ってるので、それを読んでもらえれば確実に観終わった後の袋小路からは抜け出せます。
ここでつらつら解釈を述べるのは野暮なこととは承知の上で、少しばかり考えてみた私の解釈を披露するならば、これも沢山の方の繰り返しになってはしまうんですけど、これは主人公のアイデンティティを巡る話で、もっと砕けた言い方をすると、男としての自信を取り戻す話かと。
この話、SFチックでサスペンスめいてるのに、全体にすごく俗っぽいんですよ。
自分とそっくりな男が登場して、ものすごいサスペンスが生まれそうなのに、話の進む方向は相手の恋人を寝取ること。
ことの真相ではなく、二人がすごく雄っぽい衝動に動かされて話が進んでいく。
冒頭、恋人に性行為を拒否されてた主人公が、後半、自分と瓜二つの男と入れ替わり、その妻に受け入れられて一夜を共に。
明くる朝、夫の元に一通の封筒。
開けてみると、中には鍵が一つ。
その鍵と言うのは、入れ替わったもう一人の自分が参加してた、冒頭にも登場するとあるセックスクラブのもの。
興味を持った主人公は、今夜帰りが遅くなると一夜を共にした相手の妻(状況を理解しているのに朝には全てを受け入れている妻の怖さよ)に伝えると、次の瞬間妻は部屋いっぱいに広がった巨大な蜘蛛の姿に。
この妻が変身した蜘蛛、そして劇中に度々登場する蜘蛛が表すもの、それは”母性”かと。
恐らく元の夫は浮気癖があったのでしょう。
それを知って、妻は入れ替わったもう一人の夫を受け入れた。
なのに、そのもう一人の夫も好奇心に動かされて、よからぬクラブに行こうとしているではないか!
その瞬間に蜘蛛に変化。
中盤で登場して度肝を抜かれた巨大な蜘蛛も、主人公が母と会った次のシーンで登場。
巨大な母性のメタファーとしての蜘蛛かと。
ではなぜ蜘蛛なのか。
それは分かりません。わっしょい。
で、これを主人公側の視点で見ると、
大学教師として不自由無く過ごしているけども、何か満ち足りない日々を過ごしてる主人公が、ひょんなことから無くしていた自分の男性性を再び獲得して・・・。
ってこれ『ファイト・クラブ』じゃないか!?
そうです。
多くの方がしてる通り、私もこのお話から『ファイト・クラブ』的な物語を受け取りました。
では、なぜ同じ男が二人いるのか。
それは原作を読んでも分かりません。わっしょい。
あくまでこれは解釈の一つです。
どうとでも取れるよう、しっかり映画はひらけた作りになってます。
で、そここそが鑑賞直後に感じたことで、これは褒め言葉としてすごく作りがズルい。
情報を小出しに、もしくは全く出さずに最後まで隠し通す。
圧倒的説明不足。だけどそこがいい!
これは最初から狙った作りなので、ここがいいんです。
主人公は冒頭の講義の場面でこんなことを学生達に話します。
民衆を統治する支配者は、民衆への教育や情報を統制し制限することで支配すると。
意味ありげに劇中で語られていたこの言葉こそがこの映画の語り口そのもので、観ている我々はまんまんと支配されてた訳です。
劇中に何カ所も映画的に情報が隠されてた場面がありますが、最も分かりやすかったものは、”もう一人の自分”とその妻が口論する場面。
そのシーン、カメラは妻をバストショットで捉えるんですけど、夫が出て行くと全身が映る。
そこで初めて大きなお腹を確認して、見ている側は妻が妊娠していることを知る。
どうです、このおちょくられている感覚は。
カメラが画を統制して、我々への情報を制限してたのです。
確かにこの映画は難解だと思います。
ですが、それ以上に作り手の誘導が中々にズルい。
それで一層難解に思える。
でもこの感覚、全くもって嫌いじゃないです。
カナダ人監督ドゥニ・ジルヌーヴさん。
今年公開の『プリズナーズ』でハリウッドデビュー。
向こう2年で2作品公開予定で、今ノリに乗ってる監督の一人でしょう。
黄色がかったトロントの街並。
終止不安を煽るような不穏な音楽。
『プリズナーズ』でのロジャー・ディーキンスと組んだ仕事ぶりも大変素晴らしかったですが、今回も彼の芸の幅を感じました。
次回作大いに期待。
<あらすじ>
自分と瓜二つの人物の存在を知ってしまったことから、アイデンティティーが失われていく男の姿を描いたミステリー。大学の歴史講師アダムは、DVDでなにげなく鑑賞した映画の中に自分とそっくりの端役の俳優を発見する。驚いたアダムは、取り憑かれたようにその俳優アンソニーの居場所を突き止め、気づかれないよう監視するが、その後2人は対面し、顔、声、体格に加え生年月日も同じ、更には後天的にできた傷までもが同じ位置にあることを知る。やがて2人はそれぞれの恋人と妻を巻き込み、想像を絶する運命をたどる。
映画.comより
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