2015年4月25日土曜日

セッション


Whiplash
2014/米 上映時間107分
監督・脚本:デミアン・チャゼル
製作:ジェイソン・ブラム
ヘレン・エスタブルック
製作総指揮:ジェイソン・ライトマン
コウパーサミュエルソン 他
音楽:ジャスティン・ヒューウッツ
撮影:シャロン・メール
編集:トム・クロス

キャスト:マイルズ・テラー
J・K・シモンズ 他


98点







”このダイナミズムに打ち拉がれろ!”






初見時、その上がったり下がったりの構成にもてあそばれ、そしてクライマックスに全身から震える様な興奮を味わい、オープン初日のTOHO新宿を後に。鼻息荒く肩で呼吸をしている状態で夜の歌舞伎町を歩いていました。

今年暫定ベスト。
完全にやられました。お恥ずかしい話、ネットでの町山対菊地論争に代表されるような批判意見を目にすると、うるせー、ちまちまと突いてないでこの映画のダイナミズムに打ち拉がれろ!と、少しイラっとしてしまうくらいにはやられてしまっています。


ネタバレ全開なのでご注意。








若きドラム青年ニーマンとフレッチャー。
彼等の関係をどのように捉えるかでこの作品の見方も変わってくると思います。
お話の構造が凄くシンプルな分、確かに2人の間に師弟関係を見ることも出来るんですが、私はむしろ、フレッチャーを越えるべき壁そのもの、というよりもう壁そのものの様に見ていました。

壁は何も教えません。
ただそこにそびえ立って、行く手を阻むのみ。

劇中でのフレッチャーも、ニーマンへの鬼の様な指摘はあっても、彼を導くような指導を
するシーンは一切無し。ただそこにいて、怒鳴り、叩く。
指導というよりもうあれは拒絶です。

フレッチャーの”壁”としての存在の強度は2人の演出の違いにも表れていて、劇中でやたら何かを食べているニーマンに対して、フレッチャーは何も口にしていません。着ている衣服も黒いTシャツとジャケットの一着のみ。方やニーマンは白いTシャツに血の染みが浮かび、所々ぼろぼろになって穴が空いていたりする。

この対比で浮かび上がるフレッチャーの得体の知れなさ。
要するに、彼の普段の生活が全く見えてこない。
もう彼が人間なのかすら危うい。

このフレッチャーが醸すホラー的とも言える存在感が今作の大きな魅力。
ハイテンションな鬼レッスンばかりが印象に残るようで、実はそれ以外の見えない部分が彼のキャラをしっかり裏支えしている。






映画全体のリズムに大きく貢献してるダイナミックな編集とカメラワーク。
例えば中盤での、ステージに間に合うかどうかのサスペンス。
そこでのほぼ食い気味で細切れにされたカット割り。
一見すると確かにチャカついていている様にも思えるんですが、このシーンの状況を考えるに、リズムやビートがニーマンの世界の見え方にも影響を及ぼして、彼を浸食し始めているとも取れる

やたらと顔へのクローズアップが多い今作。
これも一見すると勢いだけなのかなと思いきや、ポジティブな空気だとカットが変わる毎に顔に寄っていき、逆にネガティブだと引いていく、凄く手堅い演出がされていて納得。
例えばニーマンとニコルの初デートでのシーン。
お互いの距離が縮まるにつれて、切り返しのショットでそれぞれの顔に寄っていき、これがニーマンが別れを切り出すシーンだと、一方的に言われているニコルはまだ未練があるように顔は最初からアップ。対するニーマンへはそのままカメラが後ろに引いていくショットになっていて、お互いの心の内を示す手堅い演出。


演奏シーンになると、顔へのクローズアップが圧迫感とそこから来る緊張感に変換。
そしてクローズアップが極に達するのがクライマックス…!!!






そこまで本当にシンプルに進行していたお話が急展開を見せるのがクライマックス。
そのままの流れで大団円でも間違いなく十分な出来のはず。

ただフレッチャーは違った。やはりあいつは人ならぬ壁。ステージ上でいきなりニーマンの知らないオリジナル曲の演奏を始めるという”裏切り”。

散々な演奏で終り、もうほぼ手負いの状態ですよ。
ここで劇中で初めてニーマンの主観ショットで客席が映されます。
彼の中で静かに何かが弾けた瞬間。
茫然自失の状態で一人ステージからはけるニーマンと、優しく抱きしめる父。
すると、父から離れ、表情も変えず、ジャケットを脱ぎ、至って冷静な様子で再びステージに戻るニーマン。

彼を確認すると、またもニーマンの知らない曲を告げるフレッチャー…
突如鳴り響くアフロ・キューバンのリズム。
フレッチャーが振り向く。
ニーマンが叩くは「Caravan」
ここのカッ!カッ!と気持ちいい素早いズームアップが最高。

文字通りアイツから指揮権を奪い取った瞬間。格闘技で言うとマウントを取ったようなもの。これはステゴロの殴り合い。

幼馴染みとの気の進まない会食で発せられた、音楽の大会って結局好みでしょ?という愚問。元恋人と寄りを戻そうしたら失敗。あの時叩けなかった「Caravan」…!!

ベース、ピアノと徐々に入ってくる楽器、そのアンビエントな旋律にまたアガる。
そもそも「Caravan」のラテンのリズムがアガる…!!
うおー、やってやれ!!!!

詰め寄って来て「後で目玉をくり抜いてやる」と言うフレッチャーにシンバルで反撃。
ストレートに溜飲が下がる。

カメラワークもほとんどケレン味と言っていいくらいに動く動く
トランペットを舐めて、曲のキメに合わせてカットを変える。
一小節バースの時の、ウェス・アンダーソンばりの高速パンなんてもう笑ってしまう程の熱気。

もうこの時点で最高な快感を感じています。
ジャンル映画的な型を食破った瞬間だとすら感じます。
でも真にエクスタシーを感じるのはこの後。

フレッチャーの指揮で演奏は終わります。
が、ニーマンのドラムは終わらない。

なんとドラムのオープンソロに突入。
「何をしているんだ!」と問うフレッチャーに「俺が合図を出す」とニーマン。
何かを悟ったように戻るフレッチャー。

ここからはお互い何が起きているのか分からない。
ただただ想定外の出来事が起きていて、何かが生まれようとしている。
ドラムを叩くニーマン。
ここでふっと周りの音が下がり、至って冷静な顔のニーマンを映します。
シンバルを叩くスティックもスローモーションに。
ニーマン、ゾーン状態に入りました。

熱気に同調するようにフレッチャーもニーマンに近づき、ステージの上マンツーマンで指揮。何度も頷くフレッチャー。ジャケットを脱ぎ、手を振り上げ、終りの合図。
そこでニーマン、フレッチャーの視線がもうこれ以上に無いクローズアップで交わり合う。

ニーマン、笑顔…!!

手を振り下ろすフレッチャー。
最後のフィルを決めるニーマン。

幕引き。
エンドロール。

拍手!!!!






全身に漲る快感。
もう、最高。



<あらすじ>
世界的ジャズドラマーを目指して名門音楽学校に入学したニーマンは、伝説の教師と言われるフレッチャーの指導を受けることに。しかし、常に完璧を求めるフレッチャーは容赦ない罵声を浴びせ、レッスンは次第に狂気に満ちていく。
映画.comより

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