2014年10月23日木曜日

ぶどうのなみだ


ぶどうのなみだ
監督・脚本:三島有紀子
企画:鈴井亜由美
プロデュース:森谷雄
プロデューサー:岩浪泰幸
音楽:安川午朗
撮影:月永雄太

キャスト:大泉洋
染谷将太
安藤裕子
田口トモロヲ
前野朋哉 他

9点




”北の大地も、この世界観は許容出来ない”




今年のワースト候補です。
最初はスルーする気満々だったんですが、北海道でオールロケ、しかもロケ地が毎年帰省している祖父母のある岩見沢の三笠と聞いて、これは何はなくとも観てみるかと軽い気持ちで劇場へ行ってみると、これが飛び切りの地雷でして。

しかも久々に踏んだ地雷なもんだからそのダメージも相当なもので、帰り道にて『燃えよドラゴン』のテーマを聴きながら必死で持ち堪えていました。


ー 李小龍よ、我を救いたまえ。


薄ら寒いファンタジー。
北の大地で展開されるオカルトホラー。

この世界観、雄大な北の大地でも許容することは出来ない。






ポスタータイトルの丸っこいフォントの雰囲気で、食べ物食べてほっこり癒される系映画だろうと高を括っていたんですけど、そんなの甘い。

世界観で言うと、『47RONIN』に近いです。
つまりはファンタジー。
しかもかなりちぐはぐな。

とにかく、この映画全体を包み込む世界観が気持ち悪い。
そして、その中で動く人物達の行動原理が一々意味不明などころか全く説明がされないから気味が悪い。

冒頭、農作業に精を出す大泉洋と染谷将太。
その格好が、泥一つ付いていない藍色の麻のシャツ。
そんなお洒落して農作業してる人なんていないよ、と思いつつ、でもそんな世界感ならばそれに乗りましょうじゃないかと心を広く持ちましたよ。

しかし、その決意を無惨に打ち砕く、もはや暴力的な描写の連べ打ちに私の目はどんどん濁って行きました。

その始まりを告げるのが安藤裕子演じる謎の女の登場。
その前の、夕飯をお洒落な木のプレートにちょこんと盛り付けて食べてる大泉洋と染谷将太を観て私の脳が死んで行く音がはっきり聞こえましたけど、そんなもんじゃない。

キャンプカーで大胆に大泉洋のぶどう畑に侵入して、おもむろにダウンジングを初めて、ここに穴を掘ると言い出す安藤裕子。
ここは俺の畑だと大泉洋が突っぱねると、あんたはここでなくてもいいけど、私はここじゃなきゃダメなのと言い放ち、勝手に穴掘り生活スタート。
その穴掘りってのが、アニメみたく丸く垂直に掘って行く類いのもので、これまたなんともまぁ。
我慢です。ここで思考を止めてはダメですよ。

見かねた大泉洋が警察を呼ぶと、もの凄くクラシカルな出で立ちでクラシックカー風のパトカーに乗った田口トモロヲ演じる警察が登場。
ああ、もう分かった。これはこう言う映画なのね!
分かった、本格的にそう言うつもりで観る!!

と、始まって何度目かの決意を新たにすると、安藤裕子においしい料理を出されてすっかり仲良くなっちゃう田口トモロヲ。

こんな調子で大泉洋を除く町の人みんなと仲良くなっちゃう安藤裕子。
その町の人の数、私のカウントだと4人です。
そして、総勢でも5人のはずです。






ここで何より怖いのは、安藤裕子の行動の目的が劇中で全く説明されないんですよ。
一応ラストでアンモナイトの発掘をしていたってことになるんですけど、なんでアンモナイトなのかは明かされず放ったらかし。

確かに、確かに三笠はアンモナイトの化石が発掘された土地です。
え!?もしかしてそう言う理由なのか。
その現実の土地柄で全てが説明が出来ていると思っているのか。

大泉洋のぶどう畑だってそうです。
彼、元々の指揮者の仕事を病気が原因で辞めて、そしてワイナリーの経営を始めたそうなんですけど、なぜワイナリー?
元々父がぶどうの木を一本持っていたからとか何とか言ってましたけど、なぜ彼がワインに固執するのかが全く分からない。
え!?もしかして岩見沢にワイナリーがあるからなのか。


つまりこう言うことです。
安藤裕子のアンモナイトも、大泉洋のワイナリーも、全てはその土地のもの。言わば名産品。
その名産品で、劇中のなんやかんやが全て説明出来ているのだとこの作り手達は思っている訳ですよ。
本当におめでたい人達ですね。

その癖にですよ、劇中で空知、空知と地名を出しておきながら、薄ら寒いファンタジーで現実の空知を手前勝手に掻き消す暴挙。


やってることが余りにちぐはぐ。

でも、そんなことはいいんです。
この理屈は観終わってから思ったことですから。

本当に困ったのは、この映画全体を包む世界観が気持ち悪過ぎること。
何度途中で出ようと思ったか。


劇中、『野のなななのか』よろしく、楽器隊がぶどう畑を練り歩くシーンがあるんですけど、その恥ずかしさったらないです。
逆説的に、大林監督のあのアバンギャルドさを支える圧倒的なバランス感覚を思い知らされました。
『野のなななのか』のパスカルズは素晴らしいですよ。

言わずもがな、基本台詞は全て心のうちを口で説明する”心のお漏らし”状態。
これに加えて、前述の全く行動原理が分からないキャラ達、5人しかいない町人。
それを包み込むお寒いファンタジー演出の数々。


ー 李小龍よ、我を救いたまえ。






役者さん達に罪はありません。
大泉洋さんがこの映画に出ているということだけが唯一この作品で好感の持てるポイント。
染谷将太さんが悪いはずが無い。
安藤裕子さんだって悪く無いです。

個人的に安藤裕子さんの大ファンでして。
(彼女が歌うオザケンカバー「僕らが旅に出る理由」が本当に本当に素晴らしい!!)
その意味でも彼女のこの扱いは許せない…!!

それでは、お口直しに安藤裕子さんの、「ぼくらが旅に出る理由」をどうぞ。

うん、良い曲だ。







<あらすじ>
北海道・空知で暮らす男性アオと、ひとまわり年の離れた弟のロク。アオは父親が残したぶどうの木でワインをつくり、ロクは小麦を育てている。アオは「黒いダイヤ」と呼ばれるピノ・ノワールの醸造に挑んでいるが、なかなか上手くいかずにいた。そんなある日、アオとロクの前に、キャンピングカーに乗った旅人の女性エリカが現れ、彼女の持つ不思議な魅力が、兄弟の穏やかな日常に変化をもたらしていく。
映画.comより





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