2014年12月25日木曜日

超能力研究部の3人


超能力研究部の3人
2014/日本 上映時間119分
監督:山下敦弘
脚本:いまおかしんじ
向井康介
企画:秋元康
プロデューサー:根岸洋之
金森考宏
撮影:四宮秀俊
音楽:きただしゅん
原作:大橋裕之「シティライツ」

キャスト:秋元真夏
生田絵梨花
橋本奈々未 他

90点






決定版”裏”山下敦弘





山下監督最新作で、しかも個人的に待望のアイドル映画。
”劇映画を撮るドキュメンタリーをモキュメンタリーで撮る”何てレイヤーが重なりまくりの、一体どんな作品になっているのか見当も付かない情報に胸躍らせていまして、これは期待しない訳ないでしょうよと公開日初日、ユナイテッドシネマ豊洲にて鑑賞。
これがちゃんと面白いんだから困ったもんだ。

そして期待と同時に、鑑賞前に入ってくる情報である予感がしていたんです。
その予感と言うのが、山下監督のフィルモグラフィにおいて、『リアリズムの宿』『リンダリンダリンダ』等が代表する長編作品を監督の”表”の顔とするならば、その”裏”に当たる、より癖の強い短編作品達。今作はその決定版的作品になるのではないか。

ずばりこの予感は当たってました。
結論から言うと今作は、”裏”山下敦弘監督の決定版。
小品の様に見えてかなりの重要作ですよ…!!






長編商業映画を手掛ける一方、コンスタントに短編作品、TVドラマも多く撮っている山下監督。
その中に、モキュメンタリー手法を使った作品が多数ありまして、一番有名な作品が『不詳の人』(2004)と『子宮で映画を撮る女』(2005)。
そして、今作のテイストに一番近い作品がTVドラマとして放送された『谷村美月17歳、京都着。〜恋が色づくその前に〜』(2007)。
谷村さん主演のドラマ、なんですけど、モキュメンタリーとしてお話が進んでいく中で、彼女の素だったり演技を越えた表情が垣間見える今作に近い作りの作品になっています。

モキュメンタリーの腕はこれらの作品で実証されている訳です。
で、今作『超能力研究部の3人』で新たに加わった要素が、現役アイドルが主演の純”アイドル映画”だということ。

元々の企画は、乃木坂46の「君の名は希望」のPV監督に山下監督が選ばれ、映画のオーディションを兼ねてその様子をPVとして撮ったことが発端で、ただこの時はまだ今のような手法を使った作品になるなんて全く考えていなかったようで、普通の劇映画を撮る予定だった所を秋元康が、もっと変わったことをやらないかと監督に提案し、今作の語り口に移ったんだと。
秋元康が山下監督の資質を知っていたのかどうかは定かではないですけど、その判断、ナイス。







確かに谷村さん主演のドラマは今作に似たテイストです。
でも、谷村さんは既に立派な女優。

方や今作の主演の3人は、アイドルであり、”女優”としてはまだまだの未熟な状態。
今作は、その彼女達を山下監督が女優にするその過程を見せる映画であり、パンフレットの言葉を引用するならば、3人をなんとかペ・ドゥナに近づけようとする作品。
その過程にモキュメンタリーとしての本当のような嘘を混ぜ、彼女達それぞれの素の表情、苦悩、葛藤をより濃くあぶり出す。その様がアイドル的に輝きを放ってしまう。そんな構造の映画。

モキュメンタリー故に今作には、これ本当!?それとも演技!?な瞬間に溢れているんですけど、分かりやすい所で言うと、休憩時間にピアノを弾く生田さんへのインタビュー。
ここで監督のある言葉を聞かされた生田さんは思わずぽろぽろと泣いてしまうんですが、監督のインタビューによるとその直後ケロッとした顔で話しかけられたらしいんですよ。モキュメンタリーと言う構造上、劇映画パート以外の素の自分をも演じている訳で、そう考えるとあれはもしかしたら演技だったのか…。

一方で橋本奈々未さんの雨の中の休憩時間、ベンチでの会話のシーン。
たわいもない会話の中で、話題が乃木坂の卒業を考えているかという話になった時、はっきりした明言を避けてお茶を濁すんですけど、ここはインタビューによると、その時の撮影が辛くて、終わる頃には乃木坂を卒業してアイドルを辞めているかもしれないと思っていたんだと。その時の一瞬の表情は演技ではなくて、フィクション(嘘)と素の表情が混じり合ったもの。そう言ったレベルでの素が至る所に映っているんです。
しかもこのシーン、雨がシーンの終りでピタリと止んだりとフィクション度の高いはっきりと作られたシチュエーションだと分かるんですけど、その中に素が現れ出してしまう。
予期したものではないにしても、こう言ったバランスが作品全体凄く良い。

これらは自然に垣間見える素の葛藤。

劇中に演者としても登場する山下監督、ばっちり彼女達に鬼の演技指導をして負荷を掛け、何かの表情を引き出そうと彼女達を追い込みます。
それが今作の白眉、駐車場での喧嘩シーン。
これがまぁスリリング。

秋本真夏さんが駐車場にいるヤンキーに喧嘩をふっかけるシーンなんですけど、その啖呵が弱いとテイクを重ねまくるんです。
何度も何度も演技をするもOKが出ない。
このシーンはっきりと山下監督、秋元さんを泣かせに掛かってます。
どうにもならないと急遽ヤンキー役の方とエチュードを始めるんですが、そこでも言葉が上手く出てこない秋元さん。
横から声を出して秋元さんを追い込む山下監督。
演技も出来なくて、アイドルってなんなの?とヤンキーに喧嘩を売られ、その凄く漠然とした問いに秋元さんは苦し紛れに「(アイドルは)みんなを笑顔にする」と答えます。

この台詞は間違いなく彼女の思い出あり、それを山下監督が引き出した瞬間。
ただインタビューでは、どうにも泣かなかったと悔しそうに語っている監督。
いけずなんだからぁ。






『不詳の人』『子宮で映画を撮る女』でお馴染み、舟木テツヲこと山本剛史も今作にばっちり登場。
今作だと統括マネージャー舟木として、『不詳の人』を思わせる様な山下監督との熱いバトルを展開しています。これが最高に笑える。
やりとりそれ自体も笑えるし、乃木坂の3人との会話での車の窓を閉めるタイミングそれだけで笑える。
この舟木の登場によってグッと作品の”裏”山下度が高くなってます。
というよりも、彼が登場したらそれはもう山下監督も遊んでいるということですよ。

つまり今作は、アイドル映画としての構造に、今までの短編作品のノリを掛け合わせた一本ということ。

『ありふれたライブテープにfocus』は未見なのですが、今作、長編映画として今までの短編作品的なノリを盛り込んだ、”裏”山下敦弘の決定版と言った間違いないのでは。

山下監督とは何者かと聞かれたら、私は『リアリズムの宿』『リンダリンダリンダ』そして『超能力研究部の3人』を観れば分かると答えます。






アイドル映画としての最大の魅力。
乃木坂の3人がとびきり魅力的に映ってます。
ここだけでも十分。
それプラスしっかり山下敦弘作品、しかもより濃い”裏”の方の。


今作が”裏”山下敦弘の決定版ならば、次作『味園ユニバース』
こちらは”表”山下敦弘の新たな面が観られるのではと期待しない訳にはいかない。

山下監督がジャニーズをどう料理するのか。


<あらすじ>
人気アイドルグループ「乃木坂46」の秋元真夏、生田絵梨花、橋本奈々未が初主演を務めた映画。「乃木坂46」の5thシングル「君の名は希望」のミュージックビデオも手がけた山下敦弘監督が、同ミュージックビデオ内で行われたオーディションで選出した3人を主演に据え、超能力やUFOを真剣に研究する女子高生の青春と、そんな女子高生たちを演じる3人のアイドルが女優として初めて挑んだ映画の現場で苦悩し、成長していく過程を、メイキング風のフェイクドキュメンタリーとして描いた。原作は、大橋裕之の連作短編漫画「シティライツ」。北石器高校の超能力研究部に所属する育子、良子、あずみは、同級生の森が楽々とスプーン曲げをしているところを目撃し、強引に入部させる。森はスプーン曲げだけでなく、人の心が読めるという能力も持っており、実は宇宙人であると告白。それを聞いた3人は、森が故郷の宇宙に帰りたいに違いないと決めつけ、UFOを呼び寄せようと奮闘するが……。
映画.comより






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