『Gone Girl』
2014/米 上映時間149分 R15+
監督:デヴィット・フィンチャー
脚本:ギリアン・フリン
製作:レスリー・ディクソン
ブルナ・パパンドレア 他
音楽:トレント・レズナー
アッティカス・ロス
撮影:ジェフ・クローネンウェス
編集:カーク・バクスター
原作:ギリアン・フリン「ゴーン・ガール」
キャスト:ベン・アフレック
ロザムンド・パイク
リース・ウィザスプーン 他
98点
”完璧なあなたと完璧な私で、クソみたいな結婚をするの”
最寄りのTOHOシネマズにて鑑賞。
北米でフィンチャー史上最高の興収だとか、その評価も高いだとか、先行試写会組のテンションがトンでもなく高いだとか、そもそもフィンチャーの新作だとか、どうにもこうにも上がり出すテンション。
そして、前のめりに、鼻息荒く鑑賞。
こりゃ参った。ただの大傑作じゃないか。
ネタバレが非常に危険な映画なので、ご注意下さい。
フィンチャーの腕もさることながら、原作者で今作の脚本を担当しているギリアン・フリン。
彼女の仕事振りが本当に素晴らしい。
と同時に、本当に嫌な話思いつくなぁ、こりゃ。
まずお話がストレートに面白い。
弛んだ所なんて皆無。隙と無駄の一切無い見事な脚本。
静かに、でも確実に事態が進行していく雰囲気が素晴らしくて、フィンチャーの抑制の効いた演出とも相まってグイグイ観客を引っ張ってく力強さをお話に感じます。
初見時はお話を追うだけで最高に楽しめました。
言ってしまえば今作はジャンル映画に見えないジャンル映画。
”結婚相手はサイコ女”とでも言いますか、知らず知らずのうちに自分が殺人犯に仕立て上げられていって、なんとか無実を証明するミステリーとも言えるし、自分の結婚相手はサイコ女だったことが判明してしまうスリラーとも言える。
故に前半はストレートにキャッキャキャッキャ楽しめる映画なんですよ。
自分も、うわぁ、怖っ、楽しい…!!
とピュアな気持ちで楽しんでいました。
しかも既にこの時点で今年のベストには確実に絡んでくるだろうなと思いながら。
ここだけ取り出してもトップクラスに楽しい映画なのは間違いないです。
問題は後半、事態がある急展開を見せてから。
映画がある根源的な問いにたどり着き、作品が現実に段々と浸食して来るその瞬間。
その問いとは、人が持つ相手、他者に対する印象、そこから来るそれぞれの”役割”とは何なのか。
それらが象徴するものが、”結婚とは何なのか”と言う、絶対に答えのない宇宙のような果てしない問い。
うわっ、怖っ、と純粋に映画を楽しんでいると、いや、これあんたの話でもあるから、と急にこっちを振り向いてくる恐怖。
相手に対して理想を投影し、ある役割を持って関係を持つ。
相手が望むことを汲み、相手が抱く理想の自分を演じる。
劇中では”クールガール”として説明されるこれらを象徴するキャラクターが、エイミーと、ニック。そしてデジー。
幼少の頃から”完璧なエイミー”として両親に育てられていたエイミー。
その”完璧なエイミー”に恋をして、結婚したニック。
でも、経済的理由、不倫で段々と不穏になる結婚生活に不信感を募らせるエイミーは遂に、”完璧な私”を崩し去った罰を綿密な計画で夫ニックに与える訳ですが、その二人の関係を元に戻したものが、役割としての理想の夫、そして妻を演じること。
事件は解決したように見えて、これが真の地獄の始まりなのです。
ニックは傾いている自分に対する世間の目を正そうと、テレビに出演し、”愚かで謙虚な理想の夫”を演じてみせ、その演技にかつてのダンの姿を感じたエイミーはニックの元へ戻ってきます。
そして、再びあの日のような結婚生活を続けようと言うエイミー。
理想の妻と夫を演じて。
ニックは断ることなど出来ません。
エイミーのお腹には子供がいるのだから(精子バンクで妊娠したエイミーの恐ろしさよ…!!)。
なぜそんなことをと問うニックにエイミーはこう言い放ちます。
「結婚とはそんなものよ」
つまるところ、ニックも、無惨に殺されるデジーも、目の前のエイミーのこと等見ていなかったのです。自分の中の理想の相手、”クールガール”をエイミーの中に見ていたのです。しかし、それはエイミーだって同じこと。しかし、役割を演じること、”完璧な私”を演じることに自覚的であるエイミーはもはや無敵です。
つまるところ、ニックも、無惨に殺されるデジーも、目の前のエイミーのこと等見ていなかったのです。自分の中の理想の相手、”クールガール”をエイミーの中に見ていたのです。しかし、それはエイミーだって同じこと。しかし、役割を演じること、”完璧な私”を演じることに自覚的であるエイミーはもはや無敵です。
私は人殺しなサイコ女。あなたはなまけもので周りに流されやすいDV夫。
そんな2人で、完璧な私とあなたを演じながら、クソみたいな結婚をしましょう。
フィンチャーの演出も光ります。
例えば光りと影の使い方。
分かりやすいところで言うと、家の外は開けて日が射しているのに、家の中はブラインドが閉め切られていて薄暗い。
これが象徴的に使われるのが、エイミーとニックの再会のシーン。
倒れ込むエイミーを抱きかかえるダンをカメラは上に引いたショットで収め、ロマンチックさすら感じるシーンとして撮ります。
病院での検査を終えて家に着くと、まずマスコミに手を振り、家の中に。
薄暗い室内に入った途端、二人は素に戻り、言い争いを始めます。
このシーンで描かれるのは”外面”と”その中身”。
つまり、世間のイメージとしての夫婦像。
皮肉なことに、エイミーがニックへの心を取り戻したテレビでの放送も言わば”外面”、イメージとしての夫像。
ラスト、テレビ画面を一枚挟み、ダンがエイミーの妊娠を告げてこの映画は終わります。
その様も正に外面。
ニックの地獄はここから始まるのです。
誰だって持つ相手へのイメージ。
誰だってやる、相手の理想を演じる自分。
無意識であっても誰だってやってるんです、こんなこと。
その究極が恋愛であり、結婚。
こんなデッカいお土産持たされて、もうどうすればいいの…!!
エイミー役のロザムンド・パイク。大変素晴らしいです。
トレント・レズナーの音楽も相変わらず素晴らしい。
ジェフ・クローネンウェスの撮影も相変わらず素晴らしい。
付け加えて言っておきたいのは今作のオープニングの秀逸さ。
急かすようにクレジットが消えていく静かに不穏感を煽るオープニング。
相変わらずフィンチャー、オープニングでも持ってくなぁ。
徹頭徹尾、隅から隅まで完璧。
大傑作。
<あらすじ>
幸福な夫婦生活を送っていたニックとエイミー。しかし、結婚5周年の記念日にエイミーが失踪し、自宅のキッチンから大量の血痕が発見される。警察はアリバイが不自然なニックに疑いをかけ捜査を進めるが、メディアが事件を取り上げたことで、ニックは全米から疑いの目を向けられることとなる。
映画.com
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